「GO FOR KOGEI 2024」開幕レポート。可視化される生活のなかの表現、表現のなかの生活【2/5ページ】

東山エリア

 金沢を代表する観光地である「ひがし茶屋街」を擁する東山エリア。昔ながらの住宅街のなかには、カフェやギャラリーが点在し、工芸と生活が密接に結びついた様子を見ることができる。こうした土地の性格を踏まえ、初開催となるこのエリアでは生活のなかで活きる工芸作品を中心に展示する。

ひがし茶屋街の街並み

 川合優✕塚本美樹は老舗の油問屋を改装した台湾料理レストラン「四知堂(すーちーたん)kanazawa」で作品を紹介。木工作家の川合優は、東日本大震災で発生した大量のゴミから、廃棄物について考えるようになったという。今回は針葉樹を薄く切った経木を蓮弁のかたちに仕上げた使い捨ての皿を制作。製造のエネルギーや廃棄物が少ない本品は、工芸というジャンルが生活に根ざし生活をアップデートする可能性も含んでいることを印象づける。

展示風景より、川合優《経木の蓮弁皿》

 京都で150年近く続いている茶筒屋「開化堂」の六代目当主である八木隆裕は、150年変わらない茶筒づくりの技術を示すため、110年前のものから新品まで、茶筒を並べて展示。製造方法を変えず、しかし生活のなかで使われ、時間が蓄積されることで風合いが変化することもよくわかる展示となっている。

展示風景より、⼋⽊隆裕(開化堂)展⽰⾵景

 また、いかなる環境においても片手で蓋を開ければ空気が適度に入り、スムーズにあけることができるという茶筒づくりの技術を示すために、世界中で茶筒を開けてみた動画作品を制作。さらに、車のオイル缶やコーヒー缶などの表面部分を外し、茶筒と組み合わせることでリメイクするという試みも紹介されている。

展示風景より、⼋⽊隆裕(開化堂)《Recreate Caddy》

 ひがし茶屋街のなかにある展示スペース「KAI」では、シンプルで洗練された漆器の可能性を探求している赤木明登と、東南アジアの自然をモチーフに信楽焼の可能性を探求する大谷桃子がインスタレーションを展開。赤木は輪島塗の碗をつくるための木地「荒型」を積み重ねて展示。この荒型の職人はかつて幾人もいたが、いまやひとりとなってしまい、さらに1月の能登半島沖地震の被災によってそのひとりも廃業を考えている状態だという。なんとか廃業を食い止めようと活動する、赤木の想いを広く伝えるインスタレーションだ。

展示風景より、赤木明登のインスタレーション

 また、赤木は分業して器をつくる職人たちのあいだで使われていた、制作中の器を入れて職人間で受け渡されていた木箱も蒐集。いまはプラスチックの箱に変わられてしまったこの箱を重ね、その上に蒔絵の手法で仕上げた自身の器を載せた。その背景には大谷が描いた蓮の絵が展示されており、赤木の器と共鳴している。

⾚⽊明登×⼤⾕桃⼦の展⽰⾵景

 住宅街のなかにある、機械と手仕事の長所を取り合わせた竹俣勇壱の手がけるプロダクトブランド「tayo」のビューイングルームでは、竹俣と空間デザインを得意とする鬼木孝一郎が2回目のコラボレーション。金属加工によって制作された家具やカトラリーは、金属の持つやわらかさや軽さを前面に押し出している。例えば、ステンレス製の椅子のひじ掛けに施された美しいひねりなど、金属ならではの意匠に注目したい。

展示風景より、⽵俣勇壱×⻤⽊孝⼀郎《obi チェア》、《obi サイドテーブル》(ともに2024年

 建築家の三浦史朗と工芸の職人たちが手がけたプロダクトを保管するための施設「KAI 離」。GO FOR KOGEIではここを初めて本格的に一般公開する。施設内には風呂場、二階建ての茶室、組み立て式の待合が保管されており、そのいずれもが三浦と木工、紙、竹、アルミなどの職人たちや、高い技術を持つ大工とともにつくり出したものだ。

展示風景より、三浦史朗+宴KAI プロジェクト

 会期中はこの場所で室町時代に流行した淋汗茶席も実施。茶の湯の体裁が整う前の茶事とされるもので、風呂に入って汗を流したあと、茶を飲み、酒宴を行う。「宴KAIプロジェクト」と名づけられたこの催しで、三浦の目指すものの骨子が見えてくるはずだ。

展示風景より、三浦史朗+宴KAI プロジェクト
展示風景より、三浦史朗+宴KAI プロジェクト

編集部

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