いまいる位置から違うところへ移動するという意味の「トランスポジション」をテーマに、過去10回の実践を踏まえて新たなスタートを切った今年の第11回恵比寿映像祭。今回は、表現上の/時空や視点の/異文化間の/身体観や世界観の「トランスポジション」を、映像やアートを通して能動的に体験できるようなフェスティバルを目指す。
東京都写真美術館の展示の冒頭を飾るのは、レン・ライ(1901~80)の作品だ。フィルムに直接描画することで制作されたダイレクト・アニメーション《カラー・ボックス》や、当時発明の途上にあったカラー写真の現像技術を用いた1930年代の実験的作品《レインボー・ダンス》が空間に配置され、色とかたちの躍動感を感じることができる。
地主麻衣子はソメイヨシノにまつわるアニメーション《わたしはあなたの一部じゃない》、カメラマンをモチーフとした映像作品《テレパシーについて》の2つの新作をインスタレーションとして展示。岡田裕子は再生医療に着想を得て、3Dスキャンした自身の臓器や血管をジュエリーに見立てた新作《エンゲージド・ボディ》を発表している。
そして、デジタル・アートとデザインのコレクティヴであるユニヴァーサル・エヴリシングによる、群衆の動きの変化をシュミレーションした映像作品《トライブス》、9チャンネルのビデオ・インスタレーションで「ある日突然歌いだした彫刻」をめぐるナラティヴを展開するカロリナ・ブレグワの《広場》も見どころのひとつだ。
そのほかにも、黒川良一は肉眼では感知できないナノレベルデータをもとに、原子スケールの空間を旅するようなオーディオ・ビジュアル・インスタレーションを展示。ミハイル・カリキスは7歳の子供たちと環境問題をめぐる議論を行い、「音」にフォーカスした映像作品《とくべつな抗議活動》をつくり上げた。
いっぽう、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場のオフサイト展示では、さわひらきが新作《platter》を発表。サーカステントの内部には、さわが世界各国で撮り溜めたという映像のコラージュが投影され、日常的な想像の世界に没入することができる。
また日仏会館では、映画監督・三宅唱と山口情報芸術センター[YCAM]による映像インスタレーション《ワールドツアー》を展示。同作は三宅がiPhoneで日々を撮影した「無言日記」シリーズを原点として、10数名のYCAMスタッフと三宅が撮影した2万におよぶカットから制作された映像インスタレーションを、今回のために再構成したものだ。
これら展示のほかにも、バスマ・アルシャリフによる《ウロボロス》、科学史家のダナ・ハラウェイのドキュメンタリー《生き延びるための物語り》などのプレミア上映、シンポジウム、出展作家によるラウンジトークなど多彩なプログラムが実施される15日間の「恵比寿映像祭」で、様々な「トランスポジション」を味わってみてほしい。