ジャン=リュック・ゴダールの「思考」を歩く。最後の長編『イメージの本』から広がる“生きた上映”【3/4ページ】

 本展のキュレーションを手がけたファブリス・アラーニョは、20年にわたりジャン=リュック・ゴダールとともに映像制作を行ってきたスイスの映画作家である。制作に4年が費やされた『イメージの本』において、その全行程にゴダールとともに携わった。

 「映画の上映時間はわずか90分ですが、その背後には何千時間にも及ぶ思考のプロセスがあります」とアラーニョは語る。「この展示では、その“映画の内側にいる”という感覚を、観客が追体験できるよう構成しました。まるでゴダールの頭の中を旅するように、ひとつのイメージからまた次のイメージへと進んでいく──その過程そのものが展示なのです」。

展示風景より

 本展は、そうした制作プロセスをそのまま空間化する試みでもある。映像がただ順番に流れるのではなく、観客自身が思考の中を歩き、映像とともに自らの感情を編み直していく。その体験こそが、「生きた上映」としての本展の本質だとアラーニョは強調する。

 彼はさらに、「理解しようとしすぎなくてもいい」と来場者に語りかける。「子供のように、ただ見て、ただ感じること。それがゴダールの作品と向き合うためのもっとも自然な姿勢です。展示全体が、観客の内側にある感情を喚起する“装置”として設計されています」。

展示風景より

 会場内には、『イメージの本』で引用された映画や文学作品、絵画などに関連する書籍が約30冊設置され、自由に閲覧することができる。日本語訳のあるものは邦訳版を、その他は原語版を展示し、映像と書物、身体と記憶が交差する読書体験もあわせて提供されている。

展示風景より

編集部