身の周りにある素材を使って現代のアイコンを再現するなど、ジャンルを超越したミクストメディアによる彫刻作品を発表し続けているトム・サックス。伊勢丹新宿店本館2階イセタン ザ・スペースで2020年に開催された「トム・サックス:店舗体験」がカムバックした。会期は10月23日まで。
トム・サックスは1966年ニューヨーク生まれ。現在も同地を拠点に世界各地で活動を行っている。ロンドンの建築学校とベニントン大学を卒業後、建築家フランク・ゲーリーの事務所で家具制作に携わるという異色の経験を持つアーティストだ。これまで世界各地で数多くの展覧会に参加しており、近年では2019年に東京オペラシティ アートギャラリーで日本の美術館初個展「ティーセレモニー」を開催し、話題を集めた。
トム・サックスが作品の中心としてきたテーマはアメリカの文化と社会。さらにはラグジュアリーな消費財や国際的なブランドを模倣することで大企業のエコシステムや「ブランドイメージ」といった概念をユーモアをもって扱い、アート界へと接続させてきた。「トム・サックス:店舗体験」と題されたこの展覧会/ショップは、トム・サックスによる作品が一堂に展示され、それらをすべて購入できるというものだ。
伊勢丹での2度目の展示について、トム・サックスはこう語る。「伊勢丹はいうならば消費主義の大聖堂なんだ。自分も消費主義の信者であることに意識的であるからこそ、ここでは最高のクオリティのものを出したいと思うよ」。
トム・サックスのスタジオの規定に則って完成された展示空間は、来場者がスタジオを訪れたかのように感じられるな体験ができるよう考案されたという。
会場に並ぶのは、DJブースを含んだ大型音響システムからレコードボックス、スタジオでも使用しているというショップチェア、「NASA」のロゴが施されたアイコニックな茶碗、テーブルに椅子、ソファ、バックスキンのブルゾンやコットンのTシャツ、そして小冊子(zine)まで多種多様。これらはすべてトム・サックスによって「彫刻」として位置付けられている。
自身を「彫刻家」だと認識しているというトム・サックスはこう語る。「マルセル・デュシャンが《泉》(註:デュシャンのレディ・メイド作品のひとつ。男性用小便器を逆さにして台座に置いた彫刻)をつくったときから、あらゆるオブジェクトが『彫刻』となりえる状況がある。彫刻こそが自分に課された使命なんだ。絵画もレコードボックスもすべては彫刻だよ。そして、つくるプロセスの透明性を示すのが彫刻なんだ」。
この言葉の通り、合板や樹脂、鋼鉄、セラミックなどの断片をつなぎ合わせた作品は、誰もが一目で「ハンドメイド」だとわかる質感を誇らしげに示している。
なおアート特化型オンラインPRプラットフォーム「MARPH」では海外アーティストの参加機能が追加され、第1弾としてトム・サックスが参加。本展「トム・サックス:店舗体験」の展示ページもMARPH上に開設され、会場で展示される一部の作品が閲覧可能となっている。こちらもリアル会場とあわせてチェックしてみてはいかがだろうか。