アートにとって重要なのは、自分のコミュニティのために作品をつくることだ。
ブランドのロゴやキャラクターを転用した彫刻など、ユーモアを持って資本主義社会を風刺する作品で知られるトム・サックス。茶道をテーマにした東京オペラシティ アートギャラリーでの個展「ティーセレモニー」に際し、友人でもある野村訓市がその制作について聞いた。
儀式としての茶道
──初めに、どのようにして今回の展示のテーマである茶道に興味を持ったのかを教えてほしい。いつ茶道と出合ったか覚えている?
15年前、ニューヨークで友人が裏千家茶道(*1)の教室に連れて行ってくれたのがきっかけだね。「ヘイ、アッパーイーストサイドの移動式納屋で、10ドルで茶道のデモンストレーションが見られるんだ。茶道の基礎も教えてもらえるんだよ」という感じで誘われたけど、僕は最初は興味がなかった。ところが彼が「その移動式納屋はもともとマーク・ロスコのもので、彼は床に新聞を敷き詰めて横たわり、そこで手首を切ったらしい」と言うから、すぐ「行こうぜ!」ってなったんだ。茶道に興味があったわけではなく、事件現場に行きたかったんだよ。でもそこで茶道について学び、とてもクールだと思った。彼らは一貫した儀式を行い、それに没頭していたから。じつは、いまでも抹茶は好きになれない。エスプレッソのほうが好きだよ(笑)。でもそれは問題ではなくて、茶道の規律や芸術性に感動している。ブルース・リーや、サーフィンの世界チャンピオン、バスケットボール選手を見るのと同じくらい、茶道を愛している。僕にとってそういうスポーツは遊び半分の道楽だけれど、茶道は「もの」がすべてだという点が違う。僕は彫刻家だからね。
自分なりの茶道具をつくるようになったのは、それから7~8年後、「SPACE PROGRAMMARS」展(2012)のため、宇宙政治学を学んでいたときだった。「汚染を防ぐため、宇宙のバクテリアを地球に、また地球のバクテリアを火星に持ち込んではいけない」という、1950年代に制定された宇宙保護法があるけど、実際は違うと思った。僕がアメリカ生まれの帝国主義者としてほかの国に行くことがあれば、アルゼンチンでは金銀を、新世界では綿花を、アフリカでは象牙と奴隷を密輸するだろう。同じように、豊臣秀吉は朝鮮出兵で長次郎(*2)の先祖の陶工をさらったと言われている。それで、地球から宇宙に持っていける、僕がいちばん気に入っていることは、宗教性も、建築も、パフォーマンスも、食べ物も、すべてがセレモニーのなかに存在している茶道だと思いついたんだ。
2012年、「SPACE PROGRAM:MARS」展の一部として、パークアベニューの元武器庫で、火星を舞台にしたもっとも原始的でシンプルな茶会を行った。そのときは既成の茶碗に「NASA」と彫ったんだけど、ニューヨークの陶芸マスターでもある友人に「全部自分でつくらないとは恥知らずめ!」と言われ、彼のところで陶芸を勉強することにした。今回の展覧会にも、僕の100個もの茶碗コレクションを保管した棚があるだろう? 完璧なひとつを除いてクソみたいな出来だけど、学習の成果を見せたかった。平均以上のものをつくれるようになるまでに5年かかったよ。
──あなたは茶道の歴史にも詳しいけれど、長期にわたって徐々に発展してきたこのプロジェクトについて、どのようにしてリサーチし、大きな構想を抱くようになったのか聞かせてほしい。