彫刻としての茶道。トム・サックス「ティーセレモニー」を東京オペラシティ アートギャラリーで体験する
ニューヨークを拠点に、国際的な活動を展開するアーティスト、トム・サックス。日本の美術館初個展となる「ティーセレモニー」が、東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。「茶道」をテーマにした本展の見どころとは何か? トム・サックスの言葉とともにお届けする。
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プラダのロゴでつくられた便器や、エルメスの包装紙によるマクドナルドのバリューセットといった作品を制作し、世界のスーパーブランドからも高く評価されているトム・サックス。その日本における美術館初個展「ティーセレモニー」が、東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。
トム・サックスは1966年ニューヨーク生まれで、現在も同地をベースに世界各地で活動を行っている。ロンドンの建築学校とベニントン大学を卒業後、建築家フランク・ゲーリーの事務所で家具制作に携わるという経験を持った異色のアーティストだ。これまで世界各地で数多くの展覧会に参加しており、近年ではイサム・ノグチ美術館で「Tom Sachs: Tea Ceremony」(2016)を開催した。
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本展は、上述のイサム・ノグチ美術館「Tom Sachs: Tea Ceremony」を経て、ブラッシュアップされた展覧会。2012年から本格的に茶道を学び始めたトム・サックスは、イサム・ノグチの「古い伝統の真の発展を目指す」という姿勢に着想を得て、茶道具を工業用素材や日用品などで自作し、独自の「茶の湯」の世界をつくり出してきた。本展では、その世界を「彫刻の展覧会」として、「THEATER」「CORRIDOR」「INNER GARDEN」「OUTER GARDEN」「HISTORICAL TEA ROOM」の4セクションで紹介する。
銀色に輝く、本展のためにつくられた《Movie Dome》(2019)とスクリーン、そして70脚以上の《NASA Folding Chairs》(2012)が壮観な「THEATER」では、《Tea Cremony》(2017)と題された13分の映像作品を楽しもう。映像では、茶会の準備からお点前まで、トム・サックスが独自に解釈した茶会を見ることができる。
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これを踏まえ、展示のスタートである「CORRIDOR」へ。ここからは、先ほどの映像作品《Tea Cremony》で見た世界が実際に広がっている。
本展では茶室の構造が会場に落とし込まれている。「CORRIDOR」は茶道で言うところの「腰掛(こしかけ)」(休息所)だ。
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露地(茶室に付随する庭)門側の外露地(そとろじ)に当たる「OUTER GARDEN」へ歩みを進めよう。ここで来場者を出迎えるのは、イサム・ノグチの作品をダンボールで再現した《Narrow Gate》(2018)だ。この展覧会にとって重要な存在であるというこの作品。トム・サックスは「本来であれば、イサム・ノグチのオリジナルを展示したかった」と話すが、様々な制約があったことから自身の作品として手がけたという。
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《Torii(Middle Gate)》(2015)をくぐれば、そこには実際に鯉が泳ぐ巨大な池《Pond Berm》(2016)を中心とした「OUTER GARDEN」が広がっている。
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この先には茶室側の内露地(うちろじ)である「INNER GARDEN」があるが、その前に「HISTORICAL TEA ROOM」を見ておきたい。ここにはこれまでにトム・サックスが制作してきた様々な茶道具が並ぶ。
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トム・サックスのアイコニックな作品である、「不完全な美」を体現した「NASA」のロゴ入り茶碗。ここではその起源となった作品《First Tea on Mars》(2015)も展示されている。自作ではなく、ebayで購入した茶碗を素材にしたこの作品は、トム・サックスにとっては「失敗作」。しかしトム・サックスは「私は過去の失敗を展示することを恐れてはいません」と語る。「なぜなら、失敗しなければ学ぶこともできないのですから」。
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そしていよいよ「INNER GARDEN」へ。つくばい《Tsukubai》(2014)や卒塔婆《Stupa》(2013)、盆栽《Bonsai》(2015)などが配されたこの場所。奥では巨大な茶室《Tea House》(2011-12)が存在感を放つ。
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プレス内覧会では、実際に茶会を行ったトム・サックス。なぜここまでして茶道を探求するのだろうか? トム・サックスはこう語る。「茶道は茶碗ひとつとっても、あくなき探究心が求められます。しかしその本質は質素。そういったところに魅力を感じるのです。そして、資源が限られた日本で培われてきた自然や材料に対する眼差しは、21世紀の宇宙開拓時代に必須の人間活動のひとつです」。
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トム・サックスの「ティーセレモニー」では、その独自の解釈が時として笑いを誘う。しかしそこに悪意を感じることはない。「『文化の盗用』という言葉があります。私は日本人ではありませんが、全身全霊をかけてこういう仕事をやっている。私の仕事が意図するものは、何かを拡張させようとすることなのです」。
彫刻的な経験と茶道の学びによって拡張された「ティーセレモニー」。そのユニークな世界を堪能してほしい。
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