国際交流基金は、コロナとともに生きる時代の新たな芸術交流の促進を目指し、オンライン展覧会「11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)」を開催する。会期は3月30日〜5月5日。
展覧会のテーマは「距離を翻訳すること」。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、人と人の「距離」を意識せざるをえない状況となり、加速するいっぽうだったコミュニケーションのあり方に大きな転換点が訪れている。離れていることを前提とする暮らしのなか、「距離」を物理的な単位から離れて翻訳することが必要となる。

展示では、人と人、土地と人、歴史上の時点と現在、物理的な場所とバーチャルな空間など、様々な「距離」をめぐって制作された作品を、日英2言語のウェブサイトを通して世界に発信する。
参加作家は荒木悠、潘逸舟、飯山由貴、小泉明郎、毛利悠子、野口里佳、奥村雄樹、佐藤雅晴、さわひらき、柳井信乃、吉田真也の11名。

荒木悠の《双殻綱:第二幕(右)》(2021)は、「貝自身は、人に対して、現在の地球に対して、何を思うのだろうか?」という荒木の疑問を解明するために、貝へのインタビューを試みた作品。貝は何を語り、貝と人間とのコミュニケーションは成立するのか、いまここにある作品が右殻であれば、対になるべき左殻はどこにあるのか、などを探る。

飯山由貴は、ある夜「これは私の本当の家じゃない」と自宅を出て行こうとする妹に付き添い、夜の街を歩いた日の記録を起点に、日本の精神医療の歴史について考察する2作品《hidden names》と《あなたの本当の家を探しに行く》を出展。

2019年に逝去した佐藤雅晴は、ふたつの作品が出展される。木炭デッサンで夢の断片を描き、一枚ずつ撮影してアニメーション映像として、現実と夢のふたつの世界におけるきわめて個人的な不安を描いた《I touch Dream #1》(1999)と、ロトスコープの技法を用いて日本ではすでに存在しないオオカミが単調な動作を繰り返す《オオカミになりたい》(2017)を展示する。


ほか9名の作家も、映像、音、ライブ配信(※毛利悠子作品。会期中、毎日9時〜18時配信)など、多様な表現から「距離」をとらえ直す。
キュレーターは木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)、近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)、桝田倫広(東京国立近代美術館主任研究員)、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリーシニア・キュレーター)。最後に、キュレーター4人のコメントを紹介したい。
サイトも作品も、極力シンプルな操作で再生可能であり、ここには順路も存在しません。でも姿は見えなくとも、そこに同時にいて、同じ作品を見ているかもしれない世界中の人の息遣いを想像しながら見てもらいたいと思っています。 ──木村絵理子
本展の企画にあたり、美術館展示の劣化版コピーをオンライン空間に再現するのではなく、小モニターで見ても効果的な映像作品や、世界中の人々が参加可能な作品、ライブ配信など、オンラインの特性を活かせる作品を集めて、美術館の展覧会とは異なるものを作ることを目指した。 ──近藤健一

作家たちの実践がこれまでと異なる発表方法において、いかなる化学反応を起こすか、わたしは楽しみにしています。あらゆる時と場所が鑑賞の機会になりえます。単にデジタルデバイス越しに映像や音を鑑賞するわけじゃない。展示空間を選ぶのは、あなたです。 ──桝田倫広
本展は、距離、あるいは時間をあらたな視点で解釈する作品を通して、私たちのなかで固定化されているかもしれない概念を再考しようという試みです。不自由を感じるならば、別の視点で観察し、それを利用したり挑戦したりすることはできないか。こう考えることは、どのような時代、状況においても、私たちに少しの勇気を与えてくれるのではないかと思います。 ──野村しのぶ
