2019.10.23

第26回「台北国際芸術博覧会(ART TAIPEI)」に見る台湾アート市場の現状とは?

12の国や地域から141のギャラリーが参加した第26回「台北国際芸術博覧会(ART TAIPEI)」。アート・バーゼル香港や上海のアートフェアの台頭や、中国本土から台湾への個人観光旅行制限の影響により、台湾のもっとも歴史が長いアートフェアの現状はどうなっているのか? 現地レポートでお届けする。

 

第26回「ART TAIPEI」の展示風景
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 「かつてあった栄光を再現する、そういう意味を込めて、今年のテーマは『光の再現』としました」。第26回「台北国際芸術博覧会(ART TAIPEI)」の実行委員長・鍾経新(チュン・チンシン)は、フェアの開幕にあたってこう語っている。

 1992年に設立されたART TAIPEIは、アジアでもっとも長い歴史を持つアートフェア。過去では、パリのペロタンやニューヨークのリーマン・モーピン・ギャラリー、ジェームス・コーハン・ギャラリー、ロンドンのベン・ブラウン・ファイン・アーツ、東京のSCAI THE BATHHOUSE、小山登美夫ギャラリー、タカ・イシイギャラリーなども参加していたが、近年、アート・バーゼル香港や上海のART021、ウェストバンド・アートフェアの台頭により、アジアのアートフェアの中心は、じょじょに変化してきた。

 今年のART TAIPEIには、12の国や地域から141のギャラリーが参加。東京や台北に展開しているホワイトストーンギャラリーは、草間彌生や靉嘔、小松美羽、神木佐知子、川島優、アンドレアス・ミューエ、フィリップ・コルバートなど20人のアーティストによる200点以上の作品を展示。今年が9回目の出展となる同ギャラリーの関係者は、「台湾のコレクターは比較的にオープン・マインドであり、あらゆる種類の作品を受け入れられます」と話す。

展示風景より、ホワイトストーンギャラリーのブース。左はフィリップ・コルバート《Screw Hunt》(2018)

 日本全国の現代美術を取扱う美術商による現代美術協同組合(CADA)は、今年初めて組合のかたちとしてフェアに出展。12のメンバーギャラリーは、それぞれのブースを構えるいっぽう、高松次郎や松谷武判、斎藤義重など戦後日本を代表するアーティストの作品を特集して紹介する展示コーナーも特設された。

展示風景より、CADAの特設展示コーナー

 10年以上出展しているギャラリー椿の関係者は、「台北のアートマーケットはいつも安定しています」とコメント。東京のMASAHIRO MAKI GALLERYの代表者・牧正大も、「台湾のアートマーケットは日本より盛り上がっている」としつつ、「コレクションを形成する面から言うと、アジアで一番成長しているかと思います」と語る。

展示風景より、MASAHIRO MAKI GALLERYのブース

 今年8月、中国政府は中国人の本土から台湾への個人観光旅行を一時的に停止することを発表。また、6月より香港で起きている大規模なデモも収束する様子はまだない。その影響により、今年のフェア会場では、中国本土と香港のコレクターの姿が激減した。

展示風景より、ShanghARTのブース

 この状況について、上海、北京、シンガポールにスペースを持ち、徐震(シュー・ジェン)や楊福東(ヤン・フードン)など中国のスター的アーティストを取り扱うShanghARTのプロジェクト・マネージャー、呉雨桑(サモ・ウ)は、「フェアのために中国本土と香港から来ているコレクターは、ほぼいません」と語る。「台湾のコレクターは長期間にわたってコレクションをする習慣があり、過去の(ART TAIPEIの)実績でも、台湾のコレクターが大きな割合を占めています」。

 同ギャラリーは今回、上海のアーティストデュオ・鳥頭(バードヘッド)による2点の巨大な写真連作シリーズ「Welcome to Birdhead World Again」(2011)のみを展示。「このような大胆な展示はリスキーかもしれませんが、中国本土以外のアートファンにもバードヘッドの世界を味わってもらいたいと思います」。

展示風景より、Amanda Wei Galleryのブース

 開幕初日に約半分の作品が完売した、香港のAmanda Wei Galleryのマネージャー・PYTは、「そもそも台湾のアートマーケットはとても好調で、コレクターも多い」と語る。中国本土のコレクターが減少するいっぽう、インドネシアやマレーシアのコレクターが多く来場しているという。

展示風景より、アニッシュ・カプーア「Mirror Sculpture」シリーズ

 アニッシュ・カプーアによる「Mirror Sculpture」シリーズなどを紹介する「スペーシャル・プロジェクツ」、深井隆や徐氷(シュー・ビン)、ビバリー・バルカによる彫刻やインスタレーション作品が会場内に点在する「パブリック・アート」などのプログラムも大きな存在感を示していた今回。政治や経済などの原因で不明瞭な要素が多いものの、台湾のアートマーケットは依然として好評を得ている。今後について、上述の鍾委員長は「アート『人口』とコレクターの増加を願っています」と期待を寄せた。「トップコレクターだけでなく、一般のコレクターを育成することで、完全なピラミッドのコレクションシステムが構築されることを期待します」。

展示風景より、深井隆《A Moonlit Courtyard》
展示風景より、ビバリー・バルカ《After the Tribes》