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2019.10.18

「フリーズ・アートフェア」は何が違うのか? ディレクター、ビクトリア・シダルに聞く

ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスに展開している国際的なアートフェアである「フリーズ・アートフェア」。そのプログラムや運営、そしてブレグジットなどにおけるフェアのサバイバル術について、ディレクターのビクトリア・シダルに話を聞いた。

 

フリーズ・ロンドン2019の展示風景より、サイモン・リー・ギャラリーのブース Photo by Linda Nylind. Courtesy Linda Nylind / Frieze
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──フリーズ・アートフェアは、フォーカス、ライブ、アーティスト賞、トークなど、様々なプログラムで知られていますが、これらのフェアをユニークにし、拡大し続けている主な要因は何ですか? 

 「フリーズ」は28年前に現代美術の雑誌として設立され、この精神が私たちのフェアに明確で批判的かつ編集的なアプローチを植え付けました。例えばフリーズは、アーティストによる新作を依頼した最初のアートフェアであり、この精神は、ギャラリーに野心的でエキサイティングな作品を展示するようにつねに刺激を与えてきました。また、フリーズ・トークは、フェアが議論や討論の場であると同時に、アートが発見され販売される場でもあることを保証しています。

 フリーズが開催される都市も独特の雰囲気を醸し出しています。ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスはすべて、すばらしいアーティスト、ギャラリー、美術館を擁するアートの中心地です。

フリーズ・ロンドン2019の「LIVE」より、オスカー・シュレンマーによるパフォーマンス Photo by Linda Nylind. Courtesy Linda Nylind / Frieze

──位置付けやターゲットの顧客に関して、4つのフリーズフェアの違いは何ですか?

 各コンテンポラリーフェアは、開催地によって定義されます。ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスは非常に明確なアイデンティティを持っており、フェアのあらゆる側面に影響を与えます。またフェアは、各都市のフリーズ・ウィークの中心に位置しており、1週間を通してギャラリー、美術館、イベントに影響をおよぼします。私たちがフリーズLAを立ち上げたのは、この街では商業的だけでなく市民的な影響も与えることができることを知っていたからです。結果的に、非常に前向きな反応が見られました。

 フリーズ・マスターズはまた違っていて、古代から20世紀までの歴史的芸術を、すべて独特な現代建築のセッティングで示しています。今年は、マーク・ブラッドフォード、エドマンド・デ・ワル、エリザベス・ペイトンなどのアーティストによる講演のほか、ボッティチェリの絵画も展示されました。

──フリーズ・ロサンゼルスの初回は大成功のように見えました。次回以降、改善点はありますか?

 フリーズ・ロサンゼルスの初回は、批評的にも商業的にも非常に好評を得ており、2020年に向けてこの基盤を強化しています。今後は、アメリカ大陸および世界中から、さらに多くのお客様をこの街に連れて行きたいと思っています。

フリーズ・ロサンゼルス2019の「Frieze Projects」より、コリ・ニューカーク&ハナー・グリーリーによるインスタレーション Photo by Mark Blower. Courtesy of Mark Blower/Frieze.

──4つのフリーズフェアのディレクターとして、どのようにキュレーターを選び、また様々なプログラムの委員会を組織しているのですか?

 アートフェアの運営にはさまざまな側面があり、それが面白いと同時にやりがいでもあります。イベントの物理的な制作から、新しいオーディエンスの開拓、コンテンツのキュレーターとの連携まで、多岐にわたります。

 私たちは、つねに世界中の素晴らしいキュレーターたちと一緒に仕事をしてきました。これがフェアを際立たせ、発見と興奮を増やしています。今年のロンドンのキュレーターには、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツのティム・マーロー、ニューヨークのドローイング・センターのローラ・ホップマン、ダッカ・アート・サミットのキュレーションを手がけるダイアナ・キャンベル・ベタンクールがいます。

──フリーズ・アーティスト賞について教えてください。昨年の受賞者であるアレックス・バッジンスキー=ジェンキンスは現在、第58回ヴェネチア・ビエンナーレに出展しています。候補者をどのように選んでいるのでしょうか?

 フリーズ・アーティスト賞は、新興の国際的なアーティストがフリーズ・アートフェアで野心的な作品を発表する大きな機会です。受賞アーティストには、キュレーターやコレクター、批評家、そしてほかのアーティストたちといった大勢の観衆に作品を発表する機会が与えられます。今年の受賞者となったヒマリ・シング・ソワンは、キュレーターとアーティストで構成された2019年の委員会によって選ばれました。彼女は映画を制作し、その作品はフェアとチャンネル4で上映される予定です。以前の受賞者には、レイチェル・ローズ、ジョーダン・ウルフソン、ミカ・ロッテンバーグなどもいます。

──今年のフリーズフェアには、タカ・イシイギャラリーやTARO NASU、カイカイキキギャラリーといった日本のギャラリーも参加しています。日本の現代美術、またその欧米での受容についてどう思いますか?

 私たちは、いつも日本のギャラリーの参加を歓迎しています。彼らは、国際的に高い評価を得ており、アーティストや展覧会の非常に強力で興味深いプログラムを行っています。フリーズ・ロンドンはロンドンがグローバルになる瞬間。世界中の最高のアートを見せることは重要なのです。

フリーズ・ロンドン2019の展示風景より、TARO NASUのブース Photo by Linda Nylind. Courtesy Linda Nylind / Frieze

──デイヴィッド・ツヴィルナーは10月16日、パリにヨーロッパ大陸初のギャラリーをオープンしました。これは、ブレグジット後のイギリスにおけるビジネス環境の不確実性のためだと思います。ブレグジットは、フリーズ・ロンドンやフリーズ・マスターズ、そしてイギリスのアートマーケットにどのような影響を与えると思いますか?

 フリーズは真に国際的な組織として設立され、私たちはいままで以上にこの原則を重要視しています。今年のフリーズ・ロンドンはこれまででもっとも国際的なエディションで、35ヶ国からギャラリーが参加しました。これは、ロンドンの開放性とグローバル性を表しています。

 ブレグジットがギャラリーや市場に与える影響はまだ不明瞭ですが、フリーズのフェアはグローバルな場所であり、影響が出ないことを願っています。私たちはロンドンのアート・エコシステム全体の健全性を非常に重視しており、ギャラリーを対象とした円卓会議を主催し、ブレグジットの影響について議論して、彼らを支援するために何ができるかを決めるつもりです。どのような結果になろうとも、私たちはギャラリーにとって有利な取引条件を維持するでしょう。

──アートフェアが世界中で増えており、出展ギャラリーの「アートフェア疲れ」というものが言われるようになりました。この状況についてどのように受け止めていますか?

 アートフェアの数がかつてないほど増えているのは事実ですが、ギャラリーやフェアを訪れる人も増えています。誰もが参加するようなイベントはいまはなく、幅広い選択肢があります。各フリーズフェアは、そのミッションやプログラム、場所に基づいて区別されているので、ギャラリーやコレクターは、自分たちに適したアートフェアを決めることができます。フェアはいま、目立つように努力する必要があります。それが、私たちが非常に特徴的で魅力的なキュレーションされたプログラムに多大な投資をしている理由であり、フリーズフェアへの訪問が素晴らしい体験であることを保証する理由です。

──最後に、フリーズがアジアに進出する可能性はありますか?

 現在、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスでのフェアを優先しています。現時点では、新しい都市への拡張計画はありません。

ビクトリア・シダル Photo by Kuba Ryniewicz