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NEWS / REPORT - 2019.10.7

「フリーズ・ロンドン」と「フリーズ・マスターズ」が開催。ブレグジット直前の英国アート市場

イギリスの欧州連合離脱(ブレグジット)期限が迫っている10月初、イギリス最大級のアートフェア、「フリーズ・ロンドン」と「フリーズ・マスターズ」が、ロンドン北部にある王立公園「リージェンツ・パーク」の2会場で開催された。その様子をレポートで紹介する。

フリーズ・ロンドン

 ロンドン北部にある王立公園、リージェンツ・パーク。そこで、イギリス最大級のアートフェア、「フリーズ・ロンドン」と「フリーズ・マスターズ」が、10月3日に開幕した。

 フリーズ・ロンドンは、おもに2000年以降に制作された作品を紹介し、最新の現代美術に焦点を当てるアートフェア。いっぽう、フリーズ・マスターズは、2000年以前につくられたすべての媒体の作品を展示し、伝統美術と現代美術との関係性を探るものだ。ふたつの会場を結ぶブロード・ウォークの南端には、世界中のアーティストによる屋外作品を集める「フリーズ・スカルプチャー」が、夏からフェアの会期終了まで3ヶ月のあいだに展示されている。

フリーズ・マスターズの展示風景

 フリーズ・アートフェアのディレクターであるビクトリア・シダルは、ブレグジットがフェアやイギリスの市場に与える可能な影響についてこう述べている。「ブレグジットがギャラリーや市場に与える影響はまだ不明瞭ですが、フリーズのフェアはグローバルなモーメントであり、影響が出ないことを願っています。私たちはロンドンのアート・エコシステム全体の健全性を非常に重視しており、ギャラリーを対象とした円卓会議を主催し、ブレグジットの影響について議論し、彼らを支援するために何ができるかを決めます。我々は、どのような結果になろうとも、ギャラリーにとって有利な取引条件を維持することを引き続き支持します」。
 

フリーズ・ロンドン

 今年のフリーズ・ロンドンには、35ヶ国から160を超えるギャラリーが集まり、開催以来参加国数がもっとも多い年となった。「メイン・セクション」には、ガゴシアンやデイヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワース、ペロタンなどのメガギャラリーをはじめ、124のギャラリーが集結した。

ガゴシアンのブース
デイヴィッド・ツヴィルナーのブース。左はケリー・ジェームス・マーシャル《Car Girl 2》(2019)

 フェアの入り口にある、世界各地で17のスペースを展開しているガゴシアンは初日に、ドイツのアーティスト、スターリング・ルビーによる絵画、コラージュ、彫刻を完売。デイヴィッド・ツヴィルナーは、ケリー・ジェームス・マーシャルのペインティング《Car Girl 2》を340万ドル(約3億6000万円)の価格でアメリカの美術館に売却。ペロタンでは、ロンドンで初めて紹介されるMADSAKIの一連の絵画を完売させ、村上隆やエルムグリーン&ドラッグセットらによるグループ展示も、初日に半分以上の作品が売却されたという。

ハウザー&ワースのブース

 ハウザー&ワースでは、マーク・ブラッドフォード、ジェニー・ホルツァー、グレン・リゴンなど現在世界中のアートシーンで活躍しているアーティストの作品や、ルイズ・ブルジョワ、ジョン・チェンバレン、フィリップ・グストンといった巨匠たちの作品を展示し、初日に1400万ドル(約15億円)の総売上を記録。また、ロンドン市内のスペースで、フェアと同日に開幕したマーク・ブラッドフォードの個展で展示されている作品も初日に完売した。

タカ・イシイギャラリーのブース

 東京のタカ・イシイギャラリーのブースでは、現在ヴェネチア・ビエンナーレのポルトガル館で展示を行っているレオノール・アントゥネスや、草月流の創始者である勅使河原蒼風、生け花をモチーフにしたケリス・ウィン・エヴァンスらの作品が紹介された。

TARO NASUの展示風景より、ライアン・ガンダー《Time Well Spent》(2019)

 TARO NASUは、ライアン・ガンダーの個展を開催。情報があふれすぎる現代社会においていかに注目を集めるかという経済行為を意味する「アテンション・エコノミー」をコンセプトにした展示では、自動販売機をもとにつくられたインスタレーション《Time Well Spent》が大きな存在感を放つ。石やデジタル時計、ホテルのキーカードなどのものがすべて500ポンド(約6万7000円)でランダムに販売され、そのなかには、ダイヤモンドがひとつだけ混ぜられた。TARO NASUのディレクターである小澤詩乃は、「この作品は、日々のものの価値や意味、そして既成の価値観や富の定義について考えてもらうものです」と説明している。

 エマージングアーティストやギャラリーに注目する「フォーカス」セクションでは、ニューヨーク、ベルリン、上海、ロサンゼルスなどから、設立してから15年未満のギャラリーが集まっている。

AIKEの展示風景より、唐狄鑫(タン・ディシン)《Rest is the Best Way of Revolution》(2019)

 上海のAIKEのブースでは、中国人のアーティスト唐狄鑫(タン・ディシン)によるパフォーマンス《Rest is the Best Way of Revolution(休息は最高の革命手段)》が多くの来場者を惹きつけた。唐狄鑫は、フェアの現場で参加者を募集し、指定された身体の部位にギプスをはめる。AIKEのディレクター、王歓(アドリアン・ワン)は、「一刻も休まずにアートフェアを歩き回る人や、多忙な仕事に追われる人々にすこし休んでもらうのが、本作の醍醐味です」とコメントしている。
 

フリーズ・マスターズ

フリーズ・マスターズ

 フリーズ・ロンドンから徒歩15分程度の会場にあるフリーズ・マスターズには、130以上のギャラリーが集結。古美術からオールドマスター、そして20世紀の絵画や彫刻など、600年の美術史にわたる作品が一堂に会する。

アクセル・フェルフォールドのブース

 ベルギーのアクセル・フェルフォールドは、白髪一雄、前川強、嶋本昭三など具体美術協会の代表的な作家と、ギュンター・ユッカー、オットー・ピエネなどグループ・ゼロの作家による作品を展示。同ギャラリーのディレクター、ボリス・フェルフォールドは、「1958年に結成されたグループ・ゼロと日本の具体美術協会のあいだには、様々な関係性があります。異なる大陸で起こったふたつのムーブメントに共通する素朴さやエッセンスを見せるのは、とても興味深いです」と語っている。

ギャラリー・ヒュンダイのブース

 ソウルのギャラリー・ヒュンダイは、10月17日にロンドンのテート・モダンで開幕するナム・ジュン・パイクの個展に先立ち、パイクの一連のインスタレーションや写真資料を展示。ギャラリー・ヒュンダイのディレクター、パトリック・リーは、「ナム・ジュン・パイクは、まだ正当に評価されていない」としつつ、「彼のよく知られている、ロボットをモチーフにしたビデオ・アートのインスタレーションを大量に並べることを通し、彼の実践を来場者に知ってもらいたいです」とコメント。

 また、20世紀のアーティストを個展のかたちで紹介する「スポットライト」セクションでは、アフリカ系アメリカ人女性写真家として初めてニューヨーク近代美術館に作品を収蔵したミン・スミス(ジェンキンス・ジョンソン・ギャラリー)、1927年にスペインで起こった文学の潮流「27年世代」の中心メンバーであるマルーハ・マッロー(オルツザル・プロジェクツ)らによる絵画、写真、彫刻、インスタレーションなどが並んだ。

トム・サックス《My Melody》(2008)
イケムラレイコ《Usagi Kannon II》(2013-18)

 なお、フリーズ・スカルプチャーでは、ロバート・インディアナ、トム・サックス、トレイシー・エミン、イケムラレイコらの作品を現在も見ることができる。

 ブレグジットの期限が刻々と迫っているイギリス。それがギャラリーやアートマーケットに与える影響はまだ不明瞭だが、フリーズ・アートフェアはまだ強い勢いを示している。

ペロタンのブース
フリーズ・マスターズの展示風景
フリーズ・マスターズの展示風景