地元の才能が羽ばたく場に。「ART OSAKA 2023」がローカリティに注目する意義とは?

毎年進化を見せ続ける関西最古の現代美術アートフェア「ART OSAKA」。その2023年版から見えてきたものとは? 関係者の言葉とともにレポートする。

文・写真=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ART OSAKA 2023「Expanded」セクションの展示風景より、菅木志雄《間連空》(2013)

 2002年に発足し、昨年は大型作品を紹介する「Expanded」セクションを新設しさらなる拡張を見せた関西最古の現代美術アートフェア「ART OSAKA」。その2023年版が開幕した。

 同フェアを運営しているのは、MORI YU GALLERYやYoshiaki Inoue Gallery、ギャラリーノマルMEMなど国内のギャラリーオーナーが理事会を構成する一般社団法人日本現代美術振興協会(APCA JAPAN)。つまり、ギャラリストたちがつくり上げた、国内のアートフェアのなかでも珍しいモデルだと言える。

ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より、中央はMORI YU GALLERYのブース

 APCA JAPANの代表理事であり、2002年の初回から出展しているMORI YU GALLERYの代表・森裕一は、このような体制により「ギャラリスト、作家、コレクターの気持ちがわかるし、いろんな意味でエンドユーザーとの距離が近いフェアだ」としつつ、次のように話している。

 「関西には美術学校が多いので、そういう学生たちに教育的な視点で見てもらいたい。また、美術館の学芸員に見てもらうことで今後の企画展につながったり、企業の方がパブリック・アートと出会ったりする場としていきたいという部分もある。ギャラリーにとって売上はもちろん重要だが、長いスパンでお付き合いいただけたらいいなと思う」。

ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より、西村画廊のブース
ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より、小山登美夫ギャラリーのブース

 国指定重要文化財・大阪市中央公会堂を会場に、7月28日に始まったメインセクション「Galleries」では、今年初めて出展する西村画廊によって紹介されるアニッシュ・カプーアの1990年代の立体作品やデイヴィッド・ホックニーが1981年に中国・西安で撮影した写真シリーズ「Sian」をはじめ、菅木志雄小山登美夫ギャラリー)、松谷武判(Yoshiaki Inoue Gallery)、倉俣史朗(ときの忘れもの)などの著名アーティストから、中堅作家やまだ広く知られていない新進作家までの作品が一堂に紹介されている。

 著名アーティストの作品が展示されているものの、ほとんどの作品は入手しやすい価格で販売されている。京都に拠点を置くFINCH ARTSは、飯田美穂パク・ジヘ谷本真理、沖見かれんといった4人のアーティストの作品を展示しており、作品の価格帯は5万円〜40万円になっている。

ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より、FINCH ARTSのブース

 ギャラリーオーナーの櫻岡聡は、ART OSAKAは「関西のギャラリーからしたら、年に1度みんなが集まって必ず参加するお祭りみたいなもの」だとしつつ、同フェアの特徴について「大学を出た若い作家や関西を中心に活動を続ける作家を長く応援し、中堅からベテランまで大阪で定期的に見せる場所として機能している」と述べている。

ART OSAKA 2023「Expanded」セクションの展示風景より、NAZE《Recollection of drawing》(2023)

 FINCH ARTSは「Expanded」セクションで、茨城出身のアーティスト・NAZEによるドローイングや大型の絵画インスタレーションを展示。同セクションのエキシビターリレーションズにも携わっている櫻岡は、「日本では巨大な絵画やインスタレーション、コンセプチュアル・アートのマーケットがそこまで大きくないので、まずは作家のことをプレゼンテーションして、購入の仕方や作品の幅を広げてみたい」とその意図を明かしている。

ART OSAKA 2023「Expanded」セクションの展示風景より、菅木志雄《間連空》(2013)

 「Expanded」セクションの会場であるクリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)の1階では、「もの派」の主要メンバーである菅木志雄による円形の大規模なインスタレーション《間連空》(2013)が小山登美夫ギャラリーによって展示されている。4000万円以上の値段が設定されているこの作品についてギャラリーディレクターの長瀬夕子は、大規模作品を展示・販売する機会そのものが重要だと話す。

 「海外のアートフェアで展示するときはシッピング料もかかるし、出展費も高い。しかしここでは違う。また、来場者が写真を撮りSNSに載せることで拡散されたりすることで、海外からの問い合わせが入ることも想定される。様々なオポチュニティがあると思う」(長瀬)。

ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より、TARO NASUのブース
ART OSAKA 2023「Galleries」セクションの展示風景より

 日本でArt Collaboration KyotoTokyo Gendaiなど国際色のある新たなアートフェアが続々と誕生し、また国内の現代美術コレクター層も拡大しているなか、ART OSAKAがここ数年確実に進化を見せつつある姿勢を強く感じた。今後は国際的なアートフェアに拡大する予定があるかと森代表理事に尋ねると、否定的な言葉が返ってきた。

 その理由について森はこう話している。「出展者がビッグギャラリーばかりになってしまうと、価格帯が比較的低い若手作家たちの作品が出てこなくなってしまう。『若いけど面白いね』というような作家たちが見られる場をつねに残しておきたいし、それはART OSAKAならではの魅力でもあると思う」。

 若いコレクターが気軽にフェアを訪れて収集の旅を開始し、地元の新たな才能の発掘やコネクションの構築ができるのは、同フェアの大きな意義と言える。そのローカリティについてFINCH ARTSの櫻岡は「決して悪いことではない」と話す。「大阪を中心としたフェアなので、関西の作家を大事にし、お客さんもみんなで大事にしているのは非常に素晴らしいことだ」。

ART OSAKA 2023「Expanded」セクションの展示風景より、木村剛士《see the sun》(2023)
ART OSAKA 2023「Expanded」セクションの展示風景より、新野洋《生命の劇場 - 34°44'N 136°01'E》(2021-23)

編集部

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