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もの派

Mono-ha

「もの派」は1968年頃〜70年代中期までにわたって存在したアーティスト10数名の表現傾向に与えられた名称。関根伸夫、李禹煥、菅木志雄、吉田克朗、成田克彦、小清水漸、榎倉康二、高山登、原口典之などが主な作家である。共通して認められるのは、自然物、人工物への人為的な関与の少ない即時的、即物的な使用だが、それ以外は個人によって思考やテーマにも比較的大きな隔たりがある。戦後日本の現代美術として、具体美術協会とともに海外からの評価が高い。ただし具体とは異なり、「もの派」は現象的なものであって、アーティスト自らがこの名称を名乗ったわけではなく、そう呼ばれるのに反発もある揶揄を含んだ呼称であった。

 関根が地面を掘りかえした土でつくった円柱状の立体物と、その土を掘り出した地面に同形の穴を並置した作品《位相-大地》(1968)は、「もの派」表現の原点と考えられる。また李による著作は、全体を包括するものではないとしても、この傾向の志向性の一端を示している。「もの」との関係で表現が語られることが大半だが、舞踏や即興演奏などとの協働的な活動や、アーティスト自身によるパフォーマンスなども表現の広がりを示すものである。

 また60年代の反芸術を背景に、ミニマリズム、イタリアのアルテ・ポーヴェラ、フランスのシュポール/シュルファスなどの海外の動向とも同時代的な関係性を見ることができる。70年に開催された「人間と物質展(第10回日本国際美術展)」には、もの派と、ミニマリズム、アルテ・ポーヴェラ、コンセプチュアリズムなどの動向に属する国内外のアーティストが参加し、もの派の活動拡大の起点となった。

文=沖啓介

参考文献
『1970年ー物質と知覚 もの派と根源を問う作家たち』(読売新聞社/美術館連絡協議会、1995)
『モノ派 カタログ 1994』(中村路子/鎌倉画廊、1994)
『モノ派 カタログ 1986』(中村路子/鎌倉画廊、1986)
李禹煥『出会いを求めて―新しい芸術のはじまりに』(田端書店、1971)