丹下健三「船の体育館」、解体工事が1ヶ月中断へ。耐震性調査で保存・解体論議は新局面か

香川県が解体工事を進める丹下健三設計の旧香川県立体育館(通称「船の体育館」)に関して、9月15日から10月14日まで工事が一時中断される。解体費用をめぐる住民訴訟の争点となっている耐震性について、原告側が現地調査を行うため。ただし県は、中断期間終了後にただちに工事を再開する方針だ。

旧香川県立体育館(通称「船の体育館」) 写真提供:旧香川県立体育館再生委員会

 香川県が解体工事を進めている旧香川県立体育館(通称「船の体育館」)について、9月15日から10月14日までの1ヶ月間、工事が中断されることとなった。県に対して解体工事費用の公金支出差し止めを求める住民訴訟のなかで、争点となっている建物の耐震性を調べるための現地調査が行われる。

 旧香川県立体育館は、日本を代表する建築家・丹下健三(1913〜2005)の設計により1964年に竣工。丹下の代表作である国立代々木競技場と同じ年に完成し、そのスタディから生み出された、いわば兄弟建築とも位置づけられる。大きく反り返った形状が和船を思わせることから、「船の体育館」の名で親しまれてきた。

民間による再生案と県が進めてきた解体

 同館は耐震改修工事の入札不調などを経て、2014年に閉館。香川県は老朽化や耐震性の問題を理由として、23年に解体方針を決定した。これに対し、建築家らによって構成された民間の旧香川県立体育館再生委員会は25年に建物と土地を民間で取得し、耐震補強を施したうえでホテルなどに転用する再生案を提出。しかし県は、地震による倒壊の恐れがあることなどを理由に解体方針を維持した。

 再生委員会側は同年11月、民間資金による再生案を十分に検討しないまま約8億5000万円の公金を解体工事に支出することは違法だとして、高松地方裁判所に住民訴訟を提起。建物が解体されれば耐震性能の検証が困難になるとして、今年1月には耐震性の鑑定を求める証拠保全を申し立てた。

 いっぽう、香川県は4月10日に解体工事に着手。植栽や池、石垣などの外構を撤去し、6月からは内装の解体を進めており、9月以降は建物本体の解体に入る予定とされていた。

解体工事が進む旧香川県立体育館 写真提供:旧香川県立体育館再生委員会

耐震調査後はただちに解体再開へ

 住民訴訟では、建築構造の専門家5人が専門委員に選任され、耐震性能をめぐる審理が続いている。高松地裁は、通常の証拠保全手続きでは建物本体の解体までに調査が間に合わない可能性があるとして、県が任意に工事を中断し、原告側が現地調査を行う方法を提案。原告、被告双方が合意したことで、今回の中断が決まった。

 中断期間中は、原告側が耐震性能を調査。旧香川県立体育館の耐震性能を客観的に検証するためのデータを収集し、その後、構造計算による解析を行う予定だ。

 ただし、今回の中断は保存方針への転換を意味するものではない。原告側代理人によると、構造計算には通常3ヶ月程度を要するとされているが、工事の中断期間は現地調査が行われる10月14日までに限られる。香川県と県教育委員会も、期間終了後にはただちに解体工事を再開する方針を示しており、鑑定結果がまとまる前に工事が再開される可能性がある。

 解体が進むなかで実現した今回の一時中断は、建物の保存を直接決定づけるものではないが、県が解体の根拠としてきた耐震性能について、建物本体が失われる前に検証する時間が確保されたことになる。「船の体育館」の存廃をめぐる議論は、戦後モダニズム建築の文化的価値の調査、安全性の確保、維持する際の財政負担、民間活用の可能性といった課題を含む。これらの方針をどのような手続きで決定すべきなのか。新たな議論の局面を迎えた。