第34回の世界文化賞にオラファー・エリアソン、ヴィヤ・セルミンスら決まる

世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第34回受賞者が発表された。

オラファー・エリアソン © The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第34回受賞者が発表された。

 同賞は、1887年に設立された公益財団法人 日本美術協会の設立100年を記念し、前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継いで創設されたもの。毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、それぞれに感謝状、メダル、賞金1500万円が贈られる。

 今年の受賞者は、ヴィヤ・セルミンス(絵画部門)、オラファー・エリアソン(彫刻部門)、ディエベド・フランシス・ケレ(建築部門)、ウィントン・マルサリス(音楽部門)、ロバート・ウィルソン(演劇・映像部門)の5名。加えて、今年で第26回となる若手芸術家奨励制度の対象団体も同時に発表され、アメリカのルーラル・スタジオとハーレム芸術学校の2団体が選ばれた。

 日本美術協会副会長を務める清原武彦(上野の森美術館館長)は、9月12日に行われた受賞者発表記者会見で同賞について次のようにコメントしている。「私どもは、この困難な時代に芸術の力が世界の人々の心を癒し元気づき、新たな一歩を踏み出す日常になればと心より祈念いたします」。

ヴィヤ・セルミンス © The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 絵画部門を受賞したヴィヤ・セルミンスは1938年ラトビア生まれ。ソ連軍の侵攻を受け、5歳のときに一家で母国を離れドイツの難民キャンプで過ごし、48年にはアメリカに移住。60年代に戦闘機や銃、暴動など戦争や対立をモチーフとした油彩画を発表するいっぽう、60年代後半から70年代は油彩を離れ、鉛筆やテレビ、ランプ、消しゴムなどの日常の品々を単品で描いた静物画・立体を制作する。

ニューヨーク州ロングアイランドのアトリエにて 2023年5月
© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 日本では、2003年に森美術館の開館記念展「ハピネス」に出展し、14年には横浜トリエンナーレでも紹介された。また、今年5月にはドイツのハンブルク美術館で1997年の世界文化賞受賞者であるゲルハルト・リヒターとの2人展を開催し、話題を集めた。

ヴィヤ・セルミンス 6パーツからなる絵画(詳細) 1986-87/2012-16
© Vija Celmins. Photo courtesy Matthew Marks Gallery, Collection Glenstone Museum

 絵画/彫刻部門選考委員の酒井忠康(世田谷美術館館長)は記者会見で、セルミンスの制作について次のように評価している。「深遠な自然の回復を祈っているような感じが、どこかにずっと持続的である。これは、自身が移民の生活を苦しんでいたこともあり、いろんな時期と場所で発見したものに非常に真摯に向き合ってきた結果ではないかと思う」。

 彫刻部門を受賞したオラファー・エリアソンは紹介するまでもないアーティストだろう。デンマーク出身でベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動するエリアソンは、色、光、霧など自然界の要素を取り込み、人の知覚や認識に揺さぶりをかける作品で知られている。

オラファー・エリアソン ウェザー・プロジェクト 2003
テート・モダン、ロンドン
Photo by Jens Ziehe. Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles
© 2003 Olafur Eliasson

 2003年、ロンドンのテート・モダンで発表した巨大な人工的太陽を幻出させる《ウェザー・プロジェクト》は、エリアソンが国際的な作家になるきっかけをつくった。近年は、未電化地域に提供を続けるなど、社会に変革を促すプロジェクト「リトルサン」(2012)や、グリーンランドから運んだ氷塊を都市の中に展示し、地球規模の気候変動に対して人々に気づきと行動を喚起させる《アイス・ウォッチ》(2014)などにも取り組んでいる。

オラファー・エリアソン アイス・ウォッチ 2014(地質学者ミニック・ロージングと協力)
テート・モダン外のバンクサイドでの展示風景 2018
Photo by Justin Sutcliffe. Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles
© 2014 Olafur Eliasson

 2020年に東京都現代美術館で大規模個展「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」を開催し、同年には公益財団法人大林財団による第11回の「大林賞」も受賞。また、今年11月に港区・麻布台にオープンする麻布台ヒルズの地下に開設される「麻布台ヒルズギャラリー」でも、その個展がこけら落としとして予定されている。

 酒井はこう話す。「オラファー・エリアソンは、環境美術の世界に挑戦しているサイトスペシフィックアーティストとして知られているが、新しい時代の様々な手段を有効に活用し、多彩な企画力で発揮していることにその特徴が見えると思う」。

ディエベド・フランシス・ケレ ベルリンのケレ建築事務所にて 2023年5月
© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 建築部門を受賞したのは、ブルキナファソ出身で現在はドイツを拠点に活動しているディエベド・フランシス・ケレ。2022年にアフリカ出身で初めてプリツカー建築賞を受賞したケレは、故国ブルキナファソを中心にアフリカ各地で、地元の材料や伝統的な知恵をいかしながら、サステナブルな建築を数多く手掛けてきており、代表作「ガンド小学校」(2001)のような社会の課題解決を目指すプロジェクトで国際的に評価されている。

ディエベド・フランシス・ケレ ガンド小学校 2001 ブルキナファソ
Photo by Siméon Duchoud. Courtesy of Kéré Architecture

 建築部門選考委員である押味至一(鹿島建設会長)は、ケレの受賞について次のようなコメントを寄せている。「ケレは、貧困、非近代化社会、政治不安、地球温暖化の影響といった劣悪な環境のなかで、近代化をただ促進しようとするものではなく、経済的、環境的、社会的にその場所で持続可能な建築をつくる方法を見つけ出した。また、政治・経済の枠組みを超えて、持たざる社会の人々に希望と誇りを与えるとも言え、グローバル社会の未来を牽引する建築家の新しいモデルになる」。

 そのほか、音楽部門の受賞者であるウィントン・マルサリスは、グラミー賞でジャズ部門とクラシック部門を同時受賞し、「黒人のジャズ」「白人のクラシック」という固定観念を覆し、音楽界全体に大きな影響を与えたと称されるトランペット奏者。演劇・映像部門の受賞者であるロバート・ウィルソンは、舞踊、絵画、照明、彫刻、音楽、脚本と、様々な芸術を融合し、独自の演劇世界を創造する演出家、舞台美術家、デザイナーだ。

ウィントン・マルサリス ジュリアード音楽院にて 2023年5月
© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun
ロバート・ウィルソン 「ウォーターミル・センター」のコレクション・アーカイブにて ニューヨーク州ロングアイランド 2023年5月
© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれたルーラル・スタジオは、アメリカ・アラバマ州の貧しい農村地区で、建築を学ぶ学生が住宅、公共建築などを建設し、地域の活性化に貢献していることで選出。ハーレム芸術学校は、ニューヨークのハーレム中心部で2〜18歳の生徒に音楽、ダンス、演劇、ヴィジュアル・アート、デザインを教える団体だ。

 10月18日には、東京・元赤坂の明治記念館で授賞式典が開催。なお、これまでの高松宮殿下記念世界文化賞では、33ヶ国の175名の受賞者が選ばれており、なかでも昨年の彫刻部門を受賞したアイ・ウェイウェイ、建築部門を受賞した妹島和世+西沢立衛/SANAAをはじめ、ウィレム・デ・クーニング、デイヴィッド・ホックニー、李禹煥、草間彌生、杉本博司、三宅一生、アントニー・ゴームリー、ジェームズ・タレルなどが名を連ねている。

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