公益財団法人日本美術協会の設立100年を機に、1988年に創設された「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第33回目の受賞者が発表された。
今年の受賞者は、ジュリオ・パオリーニ(絵画部門)、アイ・ウェイウェイ(彫刻部門)、妹島和世+西沢立衛/SANAA(建築部門)、クリスチャン・ツィメルマン(音楽部門)、ヴィム・ヴェンダース(演劇・映像部門)。若手奨励制度の対象団体にはドイツの「クロンベルク・アカデミー財団」が選ばれた。
絵画部門を受賞したジュリオ・パオリーニは1940年イタリア・ジェノヴァ生まれ。イタリアのグラフィック文化が開花した1950年代に、グラフィックや写真を学んだことがのちの制作活動のきっかけとなり、1960年に最初の作品として《幾何学的図面》を制作した。
ほかにも、美術史の名品から着想し、見る者と見られる物、時間な空間、美術をめぐる枠組みに揺さぶりをかける作品が目立ち、代表例として同じギリシア彫刻の石膏像2つを対面配置し、両者を隔てる空間までを表現した《ミメーシス(模倣)》(1975~76)が挙げられる。
2020~21年には80歳記念の回顧展が、2022年にはフィレンツェのノヴェチェント美術館で個展「現在とはいつですか?」が9月7日まで開催された。
彫刻部門では、自由で民主的な社会を求め、自ら行動を起こす中国出身の現代美術家・建築家のアイ・ウェイウェイが受賞した。
アイ・ウェイウェイは文化大革命後、12年間渡米。帰国後の1995年に《漢時代の壺を投げ落とす》など、既存の権威に一石を投じるパフォーマンスを展開した。2008年の北京五輪では、主会場の北京国家体育場(鳥の巣)の設計に携わるも、「結果として政治的プロパガンダの一部になってしまった」として手を引いた。
以降、当局による拘束や常時監視を経て、2015年よりドイツに移る。23ヵ国40ヵ所もの難民キャンプへの取材をもとにした《ヒューマン・フロー 大地漂流》や、コロナ禍で封鎖された武漢を記録した《コロネーション》など、近年ではドキュメンタリー映画も精力的に制作しており、現在も各地で起きている人権の危機を世に問い続けている。
建築部門は、日本を代表する建築ユニットの妹島和世+西沢立衛/SANAAが受賞した。妹島は大学卒業後に伊東豊雄建築設計事務所で経験を積み、独立。西沢は大学卒業後に妹島事務所に入り、1995年にともにSANAAを設立した。
SANAAによる「場と人をつなぐ建築」の代表作といえば、歴史都市・金沢のイメージを一変させた《金沢21世紀美術館》(2004)だろう。大胆な幾何学フォルムと透明性、アートとの親和性が特徴の美術館で、誰もが訪れたくなる「敷居の低い美術館」という金沢市のリクエストに答えた。同年には、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展においてこの建築が金獅子賞に輝いた。
現在は、「シドニー・モダン・プロジェクト」においてニューサウスウェールズ州立美術館の増築に携わるなど、世界各地でプロジェクトを進行している。