公益財団法人日本美術協会の設立100年を機に、1988年に創設された「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第31回目の受賞者が発表された。
受賞者は、ウィリアム・ケントリッジ(絵画部門)、モナ・ハトゥム(彫刻部門)、トッド・ウィリアムズ&ビリー・ツィン(建築部門)、アンネ=ゾフィー・ムター(音楽部門)、坂東玉三郎(演劇・映像部門)の5組6名。若手奨励制度の対象団体にはフィルハーモニー・ド・パリの音楽教育プログラム「デモス」が選ばれた。
絵画部門を受賞したウィリアム・ケントリッジは、1955年南アフリカ生まれ。木炭の素描をコマ撮りした「動くドローイング」で世界的に知られ、社会的不公正をテーマに作品を制作。代表作には《プロジェクションのための9つのドローイング》(1989-)や《流浪のフェリクス》(1994)などがある。
近年では、音楽やダンス、映像などが融合した作品も手がけ、2018年には第一次世界大戦で荷物担ぎとして動員されたアフリカ兵の戦争参加を題材にした『ザ・ヘッド・アンド・ザ・ロード』を発表し、高い評価を得た。
2010年には京都賞を受賞。アパルトヘイトや植民地主義などに反対し、その病理に迫ろうとする創作姿勢が評価され、今回の受賞につながった。南アフリカからの世界文化賞受賞は、アソル・フガード(14年演劇・映像部門)に次いで2人目となる。
彫刻部門受賞者のモナ・ハトゥムは、1952年レバノン生まれ。パレスチナ人の両親のもとレバノンの首都ベイルートで生まれたハトゥムは、イギリス旅行中の75年、レバノン内戦の勃発により帰国できなくなり、以来ロンドンとベルリンを拠点に活動している。
パフォーマンスや映像を通して、政治的抑圧や社会的矛盾を表現。その作品は世界的に高く評価され、16年にはテート・モダンで回顧展を開催。17年には、3年に一度国内外の作家に授与される「ヒロシマ賞」を受賞した。作品に内在する切迫感が発揮する強いリアリティが現代美術に刺激を与え続けている点が、受賞理由となった。
今回、夫婦での建築部門受賞となったトッド・ウィリアムズ&ビリー・ツィンは、ニューヨークを拠点に活動する建築家。研究所や博物館、学校などの施設を多く手がけ、建物に対する「共感」を重視しながら設計。代表作にはバーンズ財団美術館やアメリカ民俗芸術美術館などがあり、2022年にはオバマ大統領センターが完成予定となっている。手描きのドローイングや「遅さ」(スローネス)を重視する姿勢などが評価された。
なお、これら受賞者が会する授賞式は10月16日に明治記念館で行われる。