日産アートアワード2020のグランプリは潘逸舟に決定。コロナ禍の抑圧と希望を消波ブロックで表現

日産自動車が2013年より隔年で開催している現代美術のアワード「日産アートアワード」。その第4回となる「日産アートアワード2020」のグランプリが8月26日に決定した。

「日産アートアワード2020」展示風景より、潘逸舟《where are you now》(2020)

 2013年に創業80年を迎えた日産自動車がスタートさせた「日産アートアワード」。日産が現代美術の優れた日本のアーティストを支援し、次世代へと続く日本の文化発展を助力するために始まった現代美術のアワードだ。

 第4回となる本年は、候補者28名のなかからファイナリスト5名が決定。風間サチコ、土屋信子、潘逸舟(ハン・イシュ)、三原聡一郎、和田永が選ばれ、8月1日より横浜のニッサンパビリオンで各作家による展示が行われている。そして8月26日に開催された授賞式にて、「日産アートアワード2020」のグランプリに潘逸舟が選ばれた。

潘逸舟、授賞式のオンライン中継より

 潘逸舟は上海に生まれ、その後青森県に移住。現在は東京を拠点に活動している。自身の「移動」の体験をテーマに、これまで様々な作品を手がけてきた。

 今回のアワードでは、映像と巨大なテトラポッドを組み合わせた新作インスタレーション《where are you now》を発表。人々に馴染み深い消波ブロックが、体温を維持するための銀色のエマージェンシーシートによって覆われ、展示室の中心に佇む。新型コロナの影響で移動が拒否され、消費の物流だけが稼働する現在の状況を、「群」から離れたテトラポッドで表現した作品だ。

 潘は受賞について次のように述べた。「消波ブロックが群れから離れて移動しているというアイデアは、新型コロナウイルスによってソーシャルディスタンスを求められる社会の状況から生まれたもの。社会そのものに見えない負荷がかかっている状態だが、見知らぬ他者を想像することができたらと思っている」。また、ほかのファイナリストの作品については「それぞれの作品のテーマは違っても、考えているものに共通のものが感じられる」と述べた。

 同アワードの国際審査委員長を務める森美術館・特別顧問の南條史生は、新型コロナ禍のなかでの展示、審査、受賞発表となり、オンラインの利用も含めてこれまでにはないかたちとなったことに触れたうえで、グランプリ受賞作とファイナリストに対して次のように祝辞を述べた。「《where are you now》は、今日の社会の混乱を普遍的かつ私的な作品に昇華しており、極めてシンプルな表現ながら、見る人に奥行きのある体験を与えていた。ほかのファイナリストの作品にも、社会問題や環境問題に言及したものが多く、そこに救いがあった。全員が受賞してもおかしくない作品がそろっており、5名の作家に感謝を伝えたい」。

授賞式のオンライン中継より

 グランプリに選ばれた潘逸舟には賞金300万円と、海外レジデンスの権利が授与される。なお今回は、鑑賞者の投票によって選出するオーディエンス賞は見送りとなった。

 「日産アートアワード2020」は9月22日まで開催中。

編集部

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