2013年に創業80年を迎えた日産自動車がスタートさせた「日産アートアワード」。その第4回が8月1日に開幕する。
同アワードは、日産が現代美術における優れた日本のアーティストを支援し、次世代へと続く日本の文化発展を助力するべくスタートした現代美術のアワード。これまでに宮永愛子(2013年)、毛利悠子(2015年)、藤井光(2017年)らがグランプリを受賞してきた。
「ヨコハマトリエンナーレ 2020」と時期を合わせて開催される「日産アートアワード2020」は、これまでのBankARTから会場を移し、期間限定の施設「ニッサン パビリオン」内のギャラリーが舞台となる。
キュレーターや美術館学芸員らによって推薦された候補者28名のなかから、今年5月に行われた第一次選考でファイナリスト5名が決定。風間サチコ(1972年東京都生まれ)、土屋信子(神奈川県生まれ)、潘逸舟(ハン・イシュ、1987年上海生まれ)、三原聡一郎(1980年東京都生まれ)、和田永(1987年東京都生まれ)が作品を展示している。
風間は「現在」起きている現象の根源を「過去」に探り、「未来」に垂れ込む暗雲を予兆させる木版画で、ユーモアと批評が並存する作品を手がけてきた。本展では、優生思想で統制された未来の架空都市「ディスリンピア」で開催される架空のオリンピックの様子を描いた、幅6メートルもの巨大木版画《ディスリンピック2680》(2018)を中心に展示。
同作には、ウイルスのように見える太陽やソーシャルディスタンスを守る乙女たちなど、新型コロナ後の世界を予感させるようなモチーフが、図らずも描かれている。風間は「不吉なモチーフを現在に重ねながら楽しんでほしい」と話す。新作を含め、今回のテーマは「負のレガシー」だという風間。「令和になり、平成が置き去りにされ進むなか、コロナ前の時代の宿題をこなしてから進もう」という思いが込められている。
音や泡、微生物など、多様な素材を用い、自然現象をメディアテクノロジーに取り込む作品を手がけてきた三原総一郎。今回は、水を扱った作品《無主物》を発表した。これは、目には見えない空気中の水分を変化させ、可視化させる装置。実際に展示室では、天井に設置した作品の一部から雫が滴り落ちる様子も見ることができる。
会場の温度や湿度で表情を変える本作。三原は「水は政治的な問題も孕みながら、世界中で様々なかたちで存在している。しかし今回は、水と純粋に向き合おうと考えた」と語る。
土屋信子は、身近なものや自身が拾い集めた廃材などを組み合わせ、時空を超えた異なる文明やSF的な異世界を想起させる立体を制作してきた。本展でもその姿勢は崩しておらず、会場には様々な素材をブリコラージュした彫刻作品などを展示。コロナの状況によって、制作には多くの困難があったという土屋だが、「それゆえに次につながる発見を得ることができた」という。「素材の面白さを含め、できれば皆さんそれぞれ自由に想像して楽しんでほしい」。
学生時代よりアーティスト/ミュージシャンとして美術と音楽の領域をまたいで活動してきた和田永。オープンリール式のテープレコーダーやブラウン管テレビなど、旧式の電化製品と現代のテクノロジーを融合させ、新たな楽器や奏法を編み出すパフォーマンスやインスタレーションを生み出してきた。
本展は、映像と書籍などで構成されたインスタレーションを発表。和田が世界5ヶ国に様々な素材と指示書を送り、現地の人々がそれらを楽器として組み立て、演奏。遠隔で合奏する様子は、奇しくもコロナ禍で見られたオンラインコミュニケーションを想起させる。作品は一部、コロナのため現地に素材が発送されておらず未完成の状態で、現代をリアルに反映している。
潘逸舟は上海に生まれ、その後青森県に移住、現在は東京を拠点に活動するアーティスト。自身の「移動」の体験をテーマに、これまで様々な作品を手がけてきた。
今回は、新作の映像と巨大なテトラポッドを組み合わせたインスタレーション《where are you now》を発表。馴染み深いテトラポッドが、体温を維持するための銀色のエマージェンシーシートによって覆われ、展示室の中心に佇んでいる。新型コロナの影響で、人に移動が拒否され、消費の物流だけが稼働する現在の状況を、「群」から離れたテトラポッドで表現した作品だ。潘は、「自粛期間中、自宅にいながらどこまで『外』が想像できるかを考えた。作品が不特定多数の鑑賞によって、見知らぬ他者のなかに存在し続けていくことを願っています」としている。
なお「日産アートアワード2020」のグランプリは、8月26日に行われる授賞式にて発表。グランプリには賞金300万円と、海外レジデンスが授与される。