「人間の展示」をテーマに、 国籍と他者の目線を考える
1903年に日本政府が開催した第5回内国勧業博覧会では、「学術人類館」と名付けられたパビリオンで、琉球民族やアイヌの人々などが伝統的な居住空間とともに「展示」された。欧米の博覧会での流行を受けたこの企画は、しかし、展示される側からの抗議により見直しを迫られることとなる。「日産アートアワード2017」でグランプリに選出された藤井光の《日本人を演じる》は、この史実から着想を得て行ったワークショップの様子をまとめた映像インスタレーションだ。
歴史的事象と現代を接続し、政治や社会の問題を考察する作品を発表してきた藤井。「難民や人種差別が大きな問題となっているいま、ポストコロニアリズムを見直したいと思っていた」と語る。一般参加者を募り今年1月に開催されたワークショップでは、参加者同士が互いを「日本人らしさ」により序列化し、資料の朗読や議論などを行った。本作では、観察者であると同時に見られる対象でもある彼らの挙動に、人々が様々な役割を演じながら生きる現代社会の図式も重なり、見る者に複層的な問いを投げかける。
複雑な題材を扱った作品ゆえ、授賞式ではアワードで評価されたことへの感慨を語った。いっぽうで、社会的な題材を扱った作品を発表することにはつねに難しさも感じていると言い、表現規制の風潮に警鐘を鳴らす。「誰にとっても例外なく、人生は複雑なもの。日々の困難に直面している一般市民は、それだけで芸術を受容するための精神性を十分備えていると思います。本作にも、そこだけを見たら問題視されそうな発言はあるけれど、僕はそれを乗り越える表現の強度を追求したうえで、観客を信頼して作品を発表している。受け手を信じられず、自主規制する傾向が問題だと考えています」。
SNSを通じてヘイトが生まれやすい現代にあって、美術作品は一元的な主張に陥らず問題提起として機能しうるものと考え、その可能性を探ってきた。現在は、本作を発展させ、大航海時代の奴隷制がテーマの新作を制作中だという。
(『美術手帖』2017年12月号「INFORMATION」より)