「日産アートアワード」は日産自動車が主体となり2013年に発足した、隔年で開催される現代美術のアワードで、特に過去2年間の活躍が目覚ましかったアーティストを顕彰するもの。第3回となる本年は、候補者25名のなかから題府基之、藤井光、石川竜一、田村友一郎、横山奈美の5名がファイナリストとして選出。9月16日から横浜のBankART Studio NYKを舞台に、新作展を行っている。
9月27日の授賞式には日産自動車のカルロス・ゴーン会長をはじめ、国際審査委員会の南條史生(森美術館館長)、ジャン・ド・ロワジー(パレ・ド・トーキョー館長)、キム・ソンジョン(アートソンジェセンターディレクター、Real DMZ projectアーティスティックディレクター)、ローレンス・リンダー(カリフォルニア大学バークレー美術館、パシフィック・フィルム・アーカイブ館長兼チーフキュレーター)らが出席し、グランプリとオーディエンス賞が発表された。
今回、グランプリに輝いたのは、国籍や見る事・見られる事をテーマにした《日本人を演じる》を制作・発表した藤井光。同作は1903年の第5回内国勧業博覧会で実際に行われた「人間の展示」(学術人類館)をテーマにした5つの映像などで構成されたインスタレーション。
「人間の展示」は沖縄やアイヌ、台湾、そして朝鮮(大韓帝国)などの人々に民族衣装を着せ、一定の区域内での日常生活を見せるというもの。本作で藤井は20名の参加者を募り、当時の資料の朗読やそれに関する議論、参加者同士が日本人らしさの序列化をしたワークショップなど、様々な視点からこの「人間の展示」を再考察し、映像化。過去と現在を比較し、何が忘却され、継承され、変化し、固定化されてきたのかを問うている。
藤井は今回の受賞に関して、「人間を展示し、その差異を比較し、序列化するような状況をつくり、作品として再演したなかで、ある意味の序列化である『賞』をいただくというのはもどかしい」としながら、「日本社会では極めてセンシティブな問題を恐れずに展示させていただいたアワードの枠組み自体に感謝しています」とコメント。「私たちは自分の表現したいことがかたちにできるというのが当たり前、という世界に生きているのではなく、いろいろな規制や規律のなかで表現していかなくてはいけない。(日産アートアワードは)自分が責任を持てる状況で、作品に注力できる、日本国内では貴重な場だったと思います」と話す。
審査員長の南條は「全員の審査員が藤井さんを支持した」とし、藤井の受賞についてこう語る。「いまはどのように他文化と付き合っていくかが問題になっている時代。自国中心主義になりがちな世界のなか、『他者と共存するとはどういうことなのか』『日本のアイデンティティとは何か』という問いかけを含んだこの作品は意義が深い」。
また、一般来場者の投票で決まる「オーディエンス賞」は、ネオンサインをペインティングで表現した横山奈美が受賞。「私は伝統的な技法で絵画を描いているので、このような現代アートの場に展示できることが自分にとって飛躍になりました。自分の作品には問題点もあると思うので、改善し、ますます面白い作品がつくれるようにがんばりたい」とコメントしている。
なお、グランプリの藤井には賞金300万円(ファイナリストの賞金100万含む)と、3ヶ月間のインターナショナル・スタジオ&キュラトリアルプログラム(ニューヨーク)滞在(総額500万円相当)が贈られる。