「開かれた耳」で微かな音に注目する
併設された芝生広場(山口市中央公園)と館内をつなぐ中庭では、Sachiko Mと大友によるユニット「Filament」が手がける野外サウンド・インスタレーション《Filaments Outside》が展開されている。


芝生広場には一見すると変わったところのない風景が広がっており、作品の存在には気づきにくい。しかし耳を澄ますと、微かな電子音や金属音が聞こえてくる。公園周辺の側溝に16個のガジェットが設置されており、風の音や人々の声といった環境音と混ざり合いながら独特な音響体験を生み出す。
大友は本作について「気づかない人はそのまま通り過ぎてもいい。しかし一度気づけば耳を傾けたくなるような仕かけになっている。館内の作品を体感し、耳が『開いた』状態で楽しんでほしい」と語る。鑑賞者は周囲の環境音に対して耳を澄まし、音を探す体験をすることができる。
地域との関わりを深める
2003年11月に開館したYCAMは、間もなく24年目を迎える。地域における認知度は高いいっぽうで、周辺の飲食店や市民からは「YCAMへ入館することにハードルを感じる」という声も聞かれる。専門的な領域に見えたり、どのような活動が行われているかが伝わりにくいことがその要因だという。隣接する市立図書館には多くの人々が訪れるものの、YCAMへの導線が十分に機能しているとは言い難い状況も垣間見えた。「市民や様々な分野の専門家と共につくり、共に学ぶ」を理念に掲げる同館にとって、地域との関わりをいかに深めるかは継続的な課題である。今回の大友による市民巻き込み型のプロジェクトは、その課題に対する重要な手がかりとなりそうだ。
その足がかりとなる取り組みとして、10月24日には近隣の山口市中心商店街にて特別企画「やまぐち秋の盆踊り2026」が開催される。これは昨年のプログラムで市民有志や大友、現代音頭作曲家の山中カメラ、ダンサーの福留麻里らが共同制作した新作盆踊り「やまぐち盆唄」を原点とするもので、地元商店街と協働して2年連続での開催となる。同展の開会式には、商店街の運営メンバーも駆けつけ、YCAMと地域が連携して街を盛り上げる意気込みが語られた。
専門スタッフが常駐し、作家とともに作品をつくり上げていくYCAMの環境は全国的にも稀有だと言える。市民にとっても敷居の低い開かれた場として関係性が再構築されていくことで、館のあり方もまた変化していくのではないだろうか。

なお、本展と同時開催で「Yamaguchi Seasonal 2026 坂本龍一+YCAM《Forest Symphony》」(7月24日〜12月6日)が、YCAMから車で10分ほどの距離にある常栄寺(雪舟庭)で開催されている。各地の樹木から得られた生体データをもとに音を生成する本作は、メディア・テクノロジーを応用したYCAM発の代表的プロジェクトのひとつだ。静寂に包まれた寺の境内に設置された8個のスピーカーから、世界の樹木のデータから生成された音と庭園の環境音が混ざり合う唯一無二の音響空間がつくり出されている。YCAMでの本展とあわせて、ぜひ足を運んでほしい。



















