ベーコン、ホックニー、クリムトら巨匠が集結。台湾の台中市立美術館でYAGEO財団のコレクション展が開催へ【2/2ページ】

「理性」と「本能」のあいだで美術史を読み直す

 展覧会タイトルの「The Scorpion and the Frog(サソリとカエル)」は、ともに川を渡ろうとするサソリとカエルをめぐる寓話に由来する。理性的な判断と抑えがたい本能との衝突を象徴するこの物語を手がかりに、本展では「精神と身体」を中心的なテーマとして、「抽象と具象」「聖と俗」「知性と感覚」といった様々な二項のあいだを行き来しながら作品を構成する。年代や地域による従来型の美術史的な物語ではなく、異なる時代や文化圏の作品を直感的に組み合わせることで、新たな対話を生み出すことを試みる。

 その象徴的な組み合わせが、16世紀ヴェネツィア派を代表するティントレットの《Portrait of Cardinal Marcantonio da Mula》(1562-63頃)と、ベーコンの《Study for a Pope VI》(1961)だ。前者が枢機卿の威厳と教会の制度的権威を描き出すいっぽう、ベーコンは歪められた教皇像を通じ、その権威を脆弱さや本能、実存的不安へと反転させる。約400年のときを隔てた2作品の並置によって、社会的・精神的秩序と人間の内面との緊張関係を浮かび上がらせる。

ヤコポ・ティントレット《Portrait of Cardinal Marcantonio da Mula》(1562-63頃)
フランシス・ベーコン《Study for a Pope VI》(1961) © 2026 The Estate of Francis Bacon. All rights reserved. DACS

 また、今年死去したホックニーによる代表的なダブル・ポートレートのひとつ《Christopher Isherwood and Don Bachardy》(1968)も台湾で初公開される。描かれているのは、イギリスの作家クリストファー・イシャーウッドと、その長年のパートナーであった画家ドン・バチャーディ。室内で距離を置いて座るふたりの視線や関係性を通じ、個々の人物像を超えた「ふたりの関係そのもの」を描き出した作品となっている。

 会場ではさらに、ジェンティレスキ、ロスコ、リヒター、杉本らの作品を、精神性や形而上学的探究、コンセプチュアルな思考という観点から紹介。対してブルジョワ、クリムト、ホックニーらの作品からは、欲望や脆弱性、親密さ、身体をめぐる心理的な緊張を読み解く。さらにウォーホル、クーンズ、ピカソ、常玉らがその両極をつなぎ、抽象化や反復、様式化といった手法を通じて、アイデンティティや欲望、歴史、知覚を問い直す。

 時代や地域を横断して作品同士を結び直す本展は、SANAAによる建築空間を舞台に、約5世紀にわたる美術史を「精神と身体」「理性と本能」という普遍的な問いから再考する機会となりそうだ。

編集部

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