今年5月、ポーラ美術館がクリスティーズ・ニューヨークのオークションで落札したフェリックス・ゴンザレス=トレス(1957〜1996)の《「無題」(アメリカ #3)》が、7月24日より公開される。
同作は当時1360万ドル(約21億円)で落札されており、トレスのオークションレコードを更新した。ポーラ美術館は近年、現代美術作品の収集・展示に力を入れており、今回のゴンザレス=トレス作品の新収蔵は、同館の「戦後アメリカ美術のコレクションと、その後の現代美術への展開との間をつなぐ、重要な位置を占めるものになる」としている。
そもそもフェリックス・ゴンザレス=トレスとはどのようなアーティストなのか? ゴンザレス=トレスはキューバに生まれ、主にニューヨークで活動。1960年代に隆盛したミニマリズムをはじめとする様々な動向の手法を引き継ぎながら、電球や時計、鏡やキャンディなど身の回りのものを用いて、観客の参加を促す作品や、街中の看板を利用した作品など多様な作品を制作した。自身とパートナーだった恋人ロス・レインコックの2人分の体重と同等のキャンディーを床に敷き詰め、観客に持ち帰ることを許可するインスタレーション《無題(偽薬)》(1991)などの代表作で知られる。95年にはグッゲンハイム美術館で大規模回顧展を開催したが、その翌年にエイズにより早逝した。
同館は、ゴンザレス=トレスの作品を「明快・詩的でありながら極めてラディカルであり、ミニマリズムの文脈にとどまらず、むしろその動向に再解釈を与えた」と評価。ゴンザレス=トレスは90年代以降の美術史においてもっとも重要な作家のひとりであり、没後も多くの後進に影響を与え続けている存在だ。
本作《「無題」(アメリカ #3)》は、42個の電球が連なる電気コードによって構成された「ライト・ストリングス」と呼ばれるシリーズで、キャンディのシリーズに並ぶフェリックス・ゴンザレス=トレスの代表作のひとつ。このシリーズは、1991年に作家の恋人がエイズで亡くなった直後から、自身が同じ病でこの世を去る約1年前までの数年の間に制作されたもので、時間とともに消耗していく電球は、命の終わりや喪失を暗示している。
そのいっぽう、寿命が切れる度に電球が交換されることで、作品は再生を繰り返しながら永続的に存在し続けるとも言える。一つひとつの生に与えられた有限の時間と、生と死の連続の中で見いだされる永遠の時間を、静かに鑑賞者に問いかけるものだ。
本作は、「ポーラ美術館コレクション選|印象派からリヒターまで」(〜12月1日)で見ることができる。なお同館では現在、「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」も開催中だ。