オンラインにおける「劇場空間」とは何か? 演劇作家・篠田千明の新作『5×5×5本足の椅子』に注目

演劇作家・篠田千明の新作オンライン・パフォーマンス作品『5×5×5本足の椅子』が、11月22日・23日の2日間限定で公開される。半世紀以上前の作品に新しい解釈を与え、新たな価値を引き出す本作は、「演劇とは何か」を問い続ける篠田の活動を体現する作品となるだろう。

『5×5 Legged Stool』横浜公演(2015) (C)加藤和也

 篠田千明(しのだ・ちはる)は1982年東京生まれの演劇作家。2004年に多摩美術大学映像演劇学科の同級生らと劇団「快快-FAIFAI-」を立ち上げ、12年の脱退まで中心メンバーとして主に演出、脚本、企画を手がけた。以後、バンコクを拠点にソロ活動を続けている。代表作に、作曲家・安野太郎とのコラボレーションで制作されたポリフォニー演劇『アントン、猫、クリ』(2009)、チリの作家の戯曲をもとにした人間を見る動物園『ZOO』(2016)などがある。

「テキストからではないやり方でどのように劇を立ち上げるのか」を考えてきた篠田の最近のキーワードは「劇のやめ方」だという。篠田は、やめ方の技術を考えることが「作家として社会とどうかかわるか」という問題に直結していると考え、20年に「本番のないリハーサル」シリーズをスタートさせた。

 その篠田が、新作のオンライン・パフォーマンス作品『5×5×5本足の椅子』を発表。本作は、ダンサーであるアンナ・ハルプリンの『5本足の椅子』(1962)のダンススコアをもとに篠田が14年に制作・発表したパフォーマンス作品『5×5 Legged Stool』をオンラインで展開するもの。『5本足の椅子』には、音楽における楽譜、演劇における戯曲に相当する「ダンススコア」が残されている。出演者のステップや四肢のポジションなど身体のフォームの再現を目指す一般的なものとは異なり、そこには5人の出演者がいつどこで何をするのかという活動計画が記されている。

 『5×5 Legged Stool』で、篠田は原作に登場する5人の役を1人のダンサーが演じるように演出。あらかじめ撮影されたダンサーの映像を舞台に重ね合わせることで、同じ時間軸で進行する5人の動きが表現される。新作では、公演会場をインターネット上に移すことで演出と鑑賞体験を大幅にアップデート。別々の空間にいる複数のダンサーを撮影し、配信の過程でそれらの動きをコラージュし、加えてハルプリンに関するリサーチの成果を篠田自身によるレクチャー・パフォーマンス形式で観客に共有するという。

 半世紀以上前に記されたダンススコアをもとに、身体の動きやそれを取り巻く状況を時間と空間を拡張して展開される本作は、オンラインにおける劇場空間のあり方や、今日における新たな身体像を提示するだろう。

『5×5 Legged Stool』バンコク公演(2018)
『5×5×5本足の椅子』メインビジュアル デザイン=植田 正

編集部

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