2020.4.3

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」が開催中止。芸術総監督・宮城聰「いまのいま必要な演劇みたいな何かを届けたい」

今年5月に開催予定だった「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」およびふじのくに野外芸術フェスタ 2020 静岡『アンティゴネ』の公演中止が発表された。

静岡芸術劇場の客席
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 SPAC-静岡県舞台芸術センターは、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、今年5月に開催を予定していた「ふじのくに⇄せかい演劇祭 2020」と、ふじのくに野外芸術フェスタ 2020 静岡『アンティゴネ』の公演を中止すると発表した。同時開催のストリートシアター フェス「ストレンジシード静岡」は延期される。

「ふじのくに⇄せかい演劇祭 2020」メインビジュアル

 SPACは、新型コロナウイルスの世界的な流行によってアーティストの来日が不可能になり、海外招聘作品が公演不可能になったと説明。また、多くの動員を見込む芸術総監督・宮城聰演出による『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』『アンティゴネ』についても、感染症拡大のリスクを低減するため、公演中止という決断に至ったという。チケット代金は払い戻しを行う。

宮城聰芸術総監督 (c)新良太

 世界的に文化セクターが大きな影響を受けるなか、SPACは「ふじのくに⇄せかい演劇祭 2020」の本来の会期中、「くものうえ⇅せかい演劇祭 2020」(World Theatre Festival on the Cloud)の開催を決定。詳細は4月10日以降順次発表される。

 今回の中止について、宮城は次のようなステートメントを発表している。

 わたしたちSPACは、わたしたちの周りに「演劇を必要としている」人たちがいることをひしひしと感じています。  人生を豊かに生きるためには必要だ、という人がいて、また、それがないと水を失った植物のように精神がひからびてしまうという人もいます。   そのような方々にとって、演劇は精神の栄養であり、魂の水です。   わたしたちはつねに、演劇を必要としている方がひとりでもいるうちは演劇を届け続けなければならないと考えてきました。そして今回の危機が人々をいっそう孤立させるなか、 その必要はますますふくらんでいると感じていたのです。  しかし今、わたしたちSPACは、今年の演劇祭の中止を決断いたしました。すべての海外演目の渡航が不可能になってもSPACの作品だけは上演する、と考えてきましたが、その砦も放棄することに決めました。  それは、今、俳優が集まって演劇の稽古をすることが、わたしたちの周りの人たちの身体的危険を増やす可能性がある、と判断したからです。  演劇、舞台芸術のもっとも基本的な定義は「生身の人と人が向き合うこと」です。いま生きているヒトのからだが全身から発している膨大な情報を、なるべくたくさん交換し合 うことです。  だから演劇をつくっている者たちにとって、稽古場に集まることを断念するということは、自分の根を土から引き抜いてしまうことです。栄養も水も絶たれることです。  しかし今、そうするしかないと判断を下しました。そして、観客の皆さんと、SPACのわたしたちが、ともに「演劇を必要としているのに、演劇を絶たれた」者となりました。わたしたちは皆さんに演劇を届けることができなくなりました。  そこでこれからは、「演劇を絶たれた状態で、どうやって生き延びるか」を、皆さんとともに発明しようと思います。  俳優はもはや稽古場ではなく、各自の部屋にいます。これほど物理的に切り離された状態で、わたしたちは何ができるでしょうか?でも何かできなければなりません。絶望に沈まず、せかいと繋がり続けるために。精神を枯らさないために。今をもちこたえるために。  地球のあちこちで、やはり演劇を失ってなお耐えている、おおぜいの孤独な魂と連帯するために。  いまのいま必要な、演劇みたいな何か、を、きっとみつけて、お届けします。 2020年4月3日 SPAC芸術総監督 宮城聰