戦後抽象彫刻のパイオニアであり、東京スカイツリーのデザイン監修でも知られる彫刻家・澄川喜一。首都圏の公立美術館では初となるその大規模個展「澄川喜一 そりとむくり」が、横浜美術館で開催される。会期は2020年2月15日~5月24日。
澄川は1931年島根県生まれ。彫刻家を志して東京藝術大学に進学し、塑像を中心とする具象表現の基礎を平櫛田中や菊池一雄に学んだ。彫刻専攻科を修了後は、同学で教職に就きながら数々の作品を発表。やがて木や石などの自然素材に対する深い洞察を経て、日本固有の造形美と深く共鳴する抽象彫刻「そりのあるかたち」シリーズに展開する。
澄川が自身の創作活動の起点として語るのが、思春期から青年期を過ごした山口県岩国市の錦帯橋(きんたいきょう)に魅了された体験だという。戦火をまぬがれた木造の橋の複雑な構造美と、「反(そ)り」と「起(むく)り」のシンプルなかたちは、澄川にとっての美の原点となった。
「そり」は下に向かって、いっぽう「むくり」は上に向かってゆるやかに湾曲する線や面を指す。澄川は、日本の風景や伝統的な造形に見られる多様な「そり」と「むくり」を制作の根底に据え、1970年代後半から現在にいたるまで、ライフワークとして「そりのあるかたち」シリーズに取り組んでいる。
80年代以降には全国各地の野外彫刻を手がけた澄川。その後は公共空間における造形にも関心を広げ、東京湾アクアライン川崎人工島「風の塔」や東京スカイツリーのデザイン監修など、都市の巨大構造物に関わる仕事でも大きな注目を集めた。現在、全国28都道府県、120点以上におよぶ野外彫刻・環境造形の仕事は、近年の澄川の創作活動を特徴づけている。
本展は、最新作を含む約100点の資料によって、60年以上にわたる澄川の創作活動の創作活動を回顧するもの。具象彫刻にはじまり、やがて先鋭的な抽象彫刻に転じながら、巨大な野外彫刻や建築分野との協働へと創作の領域を広げていく、その活動の全貌を見ることができるだろう。