ベルリンを拠点に、世界各地で作品を発表してきた塩田千春。大規模なインスタレーション6点を中心に、その20年の活動を網羅する個展「塩田千春展:魂がふるえる」が、森美術館で開催される。
塩田千春は1972年生まれ。国内ではこれまでに「私たちの行方」(丸亀氏猪熊弦一郎現代美術館、2012)、「ありがとうの手紙」(高知県立美術館、2013)などの個展を開催。また、キエフ国際現代美術ビエンナーレ(2012)、シドニー・ビエンナーレ(2016)といった国際展に参加するほか、2015年には第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表として《掌の鍵》を展示した。
塩田の作品をもっとも印象づけるのは、黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせた没入型のインスタレーションだ。糸の色について、黒は夜空とも宇宙ともとらえることができ、赤は血液あるいは「赤い糸」といった人と人の繋がりと考えることができると塩田は言う。本展では、移動や船を連想させる船やトランク、沈黙を示唆する焼けたピアノなどが組み合わされた《不確かな旅》《静けさの中で》といった作品を見ることができる。
自分の身体と作品を分かちがたい一体のものとしてとらえつつ、身体を作品に表出させてこなかった塩田。これまで一貫して「不在のなかの存在」をテーマとし、物理的には存在しない、記憶や夢のなかだけに存在するものの気配やエネルギーにかたちを与える制作を行ってきた。
しかし一昨年に癌の再発を告げられ、治療プロセスに機械的に従うなかで「魂はどこにあるのか」という問いが浮かんだという。その過程で身体がばらばらになるような感覚に襲われた塩田は、壊れた人形のパーツを集め、そこに自身の手足を鋳造した作品の制作を開始。本展では、身体の断片が糸で繋げられた新作インスタレーションを発表する。
そのほかにも本展では、初期のドローイングや身体を使ったパフォーマンスの記録を通して、塩田の実践の一貫性と発展をたどる。また、2011年初演のオペラ『松風』(2018、新国立劇場ほか)をはじめとする舞台美術の仕事に関する資料も展示。記録映像や模型から、塩田の空間芸術がどのように舞台公演に活かされてきたのか、その様子をを再現する。
副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを、他者にも伝えたいという思いが込められている。本展では、「不在のなかの存在」を一貫して追求してきた塩田が問いかける、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を実感することができるだろう。