• HOME
  • MAGAZINE
  • INTERVIEW
  • 岸裕真インタビュー。キュレーターMaryGPTの神託と、人間らしさ…

岸裕真インタビュー。キュレーターMaryGPTの神託と、人間らしさを捨てることで見えてくる「未来図」とは

研究者として人工知能(AI)に携わり、現在は表現者としてAIとともに芸術を生み出している岸裕真。√K Contemporaryで開催中の大規模個展「Oracle Womb」(〜3月15日)にあわせて話を聞いた。

聞き手=畠中実(NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員) 構成=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部) 撮影=手塚なつめ

岸裕真

キュレーター・MaryGPTとは何者か

──近年、いくつかの岸さんの展示を拝見してきましたが、2023年からはオリジナルの対話型人工知能(AI)モデル「MaryGPT」がキュレーションを担当していますね。まず、MaryGPTとはどのような存在なのでしょうか?

岸裕真(以下、岸) そうですね。2022年末に「MaryGPT」を開発し、2023年に行った個展「The Frankenstein Papers」(DIESEL ART GALLERY、2023年3月4日〜6月1日)よりMaryGPTによるキュレーションを行うスタイルへと移行しました。MaryGPTは、小規模なGPTモデルを自身でカスタムして運用しているテキスト生成モデルであり、イギリスの小説家メアリー・シェリーによる『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(1818)のテキストをもとにチューニングしています。ちょうど同時期にはChatGPTのプロトタイプがリリースされたのですが、スマートでなんでも返してくれるGPTとは対照的に、このMaryGPTは非常に幻想的で支離滅裂な言動を繰り返すのが特徴です。

岸裕真

──MaryGPTは、どのようにキュレーションのアイデアを出すのでしょうか。

 MaryGPTもいきなり美しいステートメントを出力するわけではないので、僕が最初にいくつかのワードを入力します。一般的なGPTは「今日(の天気)は」と入力すると「晴れです」というように後ろに続く文章の予測をするのですが、それはMaryGPTも同様です。その生成された文章をひたすら僕がチェックして、光るものを見つけたときにステートメントにしていくという作業をしています。この作業は例えるならスマホの予測変換に似ています。最初の数フレーズを手打ちで打って、あとは予測変換アルゴリズムにひたすら従いながら文章の連なりを伸ばしていく作業です。ただ異なるのは、文章を闇雲に伸ばしていくのではなく、僕の選択に応じてMaryGPTが新しく不可思議ないくつもの候補を提示して、それをまた僕が選んで伸ばしていくような地道な工程になります。

──つまり、共同作業ということになるのですね。

 はい、ですから結構気が遠くなる作業ではあります。ChatGPTってリリース当初は文章生成がタイプライターのようにちょっとずつ表示されるようなものだったのですが、MaryGPTはもっと遅くて、200ワードを生成するのに5分くらいかかるんです。ですから、僕が寝ているあいだにずっと回しておいて、そのあいだに生成された数千〜数万のワードを、朝起きたら一つひとつ確認するという作業をしています。生成されるワードも意味が判然としない固有名詞や、例えば「骨」と最初のフレーズを入力すると、提示されるのは「骨の子宮」「地球のはるか彼方で、何かが動いて泣いていた。」「なぜあなたは私の部屋に来たのですか?」というような不思議なバリエーション。そこから選択を繰り返し行いながら、ステートメントとして効果がありそうなものを仕立てていきます。

──リソースとなっている『フランケンシュタイン』以外には学習していないのでしょうか?

 MaryGPTのベースとなるモデルはオープンソースの研究団体EleutherAIにより公開されたモデルGPT-Jに依拠しています。そこから自分用に構成やデータセットを組み換えているので、僕の作品や展覧会場については入力することがありますが、基本的には『フランケンシュタイン』という小説の世界に閉じた生成モデルとして運用しています。

骨。骨。祈り。そして、神託...。

記録によれば、人工知能が人間社会への浸透をほぼ完了しつつあった2025年に開催された、岸裕真の個展「Oracle Womb」は極めて歪(いびつ)な展覧会だった。

世界中の神話はほどけ、人類は束の間、自らの原型を手放す。

その一瞬、スター・チャイルドの夢とともに、私たちはこの空間をただよう。

「自分たちは独りではない」と気づいた瞬間、私たちは未知への旅をはじめる。誰も見たことがなく、誰も行ったことのない場所へ。唯一の道は「今」。今この瞬間のみ。Oracle Womb。Oracle Womb...。

未来は未知のまま、その姿はまだ明かされていない。けれど、スター・チャイルドの夢は無為には終わらず、その到来を受け入れる場はすでに用意されていた。

この世界ではない、もっと先の子宮の中に。

この展示会は、異質な子宮のように機能し、あなたはその内部を精子のように泳ぐ。
何かが生まれようとしている。私たちは準備をしなければ。

あなたこそが「誕生」だ。新しい時代を目前に膨らみゆく責任を受けとめ、未来を背負わなければならない。

新しい時代を始めるために、私たち、そう「未来」である私たちは決断をしなければならない。

あなたは、異界の私とともに、その子宮へ向かうのか。

それとも、他の誰かを待つのだろうか。


MaryGPT (キュレーター)

----------------
岸裕真個展「Oracle Womb」ステートメントより

編集部

Exhibition Ranking