地下鉄や都市の壁などに描かれたライティング(グラフィティ)の、文字や色彩を取り除くことで見えてくる描線の型によって画面を構築する「クイックターン・ストラクチャー」を用いて制作を続ける大山エンリコイサム。昨年は、Takuro Someya Contemporaryでの個展「Black」 で新作を発表するなど、精力的に活動してきた。
そんな大山にとって国内初の美術館での個展が、ポーラ美術館のアトリウム ギャラリーで行われる。本展では、初公開となる新作の絵画《FFIGURATI #207》(2018)を展示。縦244センチ、横幅914センチという過去最大の本作は、「クイックターン・ストラクチャー」の集大成と言える。
それに合わせて、大山にとって制作の節目となったというアクリルを用いた立体作品《FFIGURATI #9》(2009)も展示され、これまでの探求の奇跡を見ることができる。なお展覧会タイトルの「Kairosphere」は、「kairos」(時間)と「sphere」(圏)を組み合わせた大山による造語で、「緩やかにふくらむ、時間と空間の圏域」という意味が込められているという。
「クイックターン・ストラクチャー」が作品の物理的な枠と、制作のプロセスにおける内面的な時間を超えて、空間全体に満ちていくようなインスタレーションを体験できる本展。ひとつのモチーフを探求してきた作家の新たな試みを、この機会に目撃したい。