日本の近代を代表する画家・岸田劉生(1891〜1929)。その画業を通覧する展覧会「没後90年記念 岸田劉生展」が、2019年8月に東京ステーションギャラリーで開催される。
劉生は東京・銀座に生まれ、黒田清輝が主宰する白馬会葵橋洋画研究所で油彩を学んだ。ゴッホやゴーギャンなどの後期印象派の作品に衝撃を受け、1912年に斎藤与里、高村光太郎らとヒユウザン会を結成。激しいタッチと鮮烈な色彩による作品を発表し、画家としての出発点となった。
ところがその後、劉生は後期印象派風の表現に疑問を持ち、写実の道の探求を始める。《B.L.の肖像(バーナード・リーチ像)》など、友人をモデルとした人物画を相次いで手がけるようになり、その様子は「劉生の首狩り」と言われるほどだったという。
細密な描写による写実表現を確立した劉生は、その後も人間への探求を続ける。18年には、5歳の娘・麗子を初めて描いた《麗子肖像(麗子五歳之像)》を完成。また、《道路と土手と塀(切通之写生)》など人間と自然の葛藤を問う作品を手がけ、写実表現によって「内なる美」を探し求めた。
その後も毎年成長する麗子の像を描きながら、次第に写実だけでなく水彩画や素描も制作するようになった劉生。東洋的な写実表現として「卑近の美」を見出し、日本画の技術を習得する。瑞々しい風景画を制作し、「新しい道」への一歩を踏み出したかに見えたが、病気により38歳の若さで急逝。絵画の道は途絶することとなる。
本展ではこうした劉生の画業の変遷をたどるため、画面上のサインなどをもとに作品を制作年順に構成する。また、誰もが知る《麗子像》の数々も紹介。日本の近代美術の流れのなかで、劉生が独自に切り開いていった作品世界に迫る内容となっている。
なお本展は東京ステーションギャラリーの後、山口県立美術館、名古屋市美術館への巡回が決定している。