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美術史上最悪の未解決事件。被害総額5億ドルの「ガードナー美術館盗難事件」とは何か?

ボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は、そのコレクションとともに、1990年に起こった大規模な盗難事件でも知られている。この事件は多くの関心と憶測を呼び、最近ではNetflixのドキュメンタリー「ガードナー美術館盗難事件 消えた5億ドルの至宝」で取り上げられた。本稿では同美術館の成り立ちと事件について振り返る。

文=國上直子

イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館 出典=ウィキメディア・コモンズ King of Hearts, CC BY-SA 4.0

創立者イザベラ・スチュワート・ガードナーとは

 1840年ニューヨークの生まれのイザベラ・スチュワートは、リネン貿易と投資で富を築いた父を持ち、裕福な家庭に育った。ヨーロッパ留学中、アメリカ人の学友ジュリア・ガードナーと親交を深めたことをきっかけに、ジュリアの兄ジョン・ガードナーと知り合い、1860年に結婚した。

 1863年に長男を授かるが、2年後に肺炎により亡くしてしまう。追い討ちをかけるように、医師から再び子どもを産むことができないと告げられたイザベラは重度の鬱状態に陥ってしまった。ガードナー夫妻は精神回復のため、海外を頻繁に訪れるようになり、やがて旅先で美術品収集を開始。それが後のコレクション形成につながっていった。

 イザベラの夫ジョンはボストンの名家の生まれで、ボストン美術館の理事を務めるなど、社交界の名士として知られていた。当時、社交界の女性たちは同性同士で行動を共にするのが不文律だったが、イザベラはアーティスト、ミュージシャン、作家、学者など、幅広い交友関係を持ち、気心の知れた男性の友人らと、ビールを飲んだり、スポーツ観戦したりと、型破りな行動で注目の的となった。また演劇や音楽に造詣が深く、自宅に有名なパフォーマーを招き、知人を集めチャリティイベントを開くことも多かった。

 

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