──今回の展覧会タイトルである「ほぼ、空」についてお聞きします。英語で「Sky」は通常「空」を意味しますが、日本語の漢字の「空」は「空=くう、空虚、空間」という意味も想起させます。このタイトルは、展示作品だけでなく、作品を取り巻く周囲の空間そのものが立ち現れてくる本展に極めてふさわしいものですが、どのようにこのタイトルを思いついたのでしょうか。
リチャード・タトル 英語の「Sky」と日本語の「空」の違いはよく理解しています。日本語の「空」には、見上げる「空」だけでなく「空虚」や「空間」といった概念が含まれていますよね。私はその含意をとても気に入っています。「空」という言葉は、何か特定の対象を指し示すために使うわけではありません。言葉そのものが私たちに何かを語りかけ、複合的な思考を促すように問いかけてきます。双方向の響き合いをもっているから、強く魅了されたのです。

──展覧会は茶色の柱頭をもつ白い柱、もみの木にカタツムリが乗ったバスケット、色とりどりの色薄紙をつなげてつくられた帯からなる、3つのエレメントで構成されています。なぜ、この3つのエレメントを軸に展覧会を構築されたのですか。
タトル 私は、アートというものはこの世界の外側や、別の次元へ飛び出していくものではなく、あくまで「私たちが生きているこの世界の内側」で機能し、制作されるものだと信じています。自然からエネルギーを抽出したり、自然から力を奪い取ったりするのはシャーマン(呪術師)の仕事ですが、私はシャーマンとは真逆の立ち位置にいます。自然から力を拝借するのではなく、自然に力を与えることを試みているのです。
今回の展覧会もまた、自然に力を与えることができていると心から信じていますし、一歩間違えれば自然から力を奪うような展示になってしまう危険もありましたが、決してそうはなりませんでした。心からそう確信しています。

──昨年12月にお会いした際、青木さんが用意された展覧会の設計図にあなたは3つの石を投げ、それを基準に柱やバスケットを配置することを提案されましたね。偶然性を取り込む試みですが、私はこのときあなたが投げた石の数の「3」という数字が、とても重要であると感じています。ギャラリー内の照明も「光と闇」という2つの要素の対立ではなく、あいだに現れる影こそが重要であると感じます。つまりは「3」という数字が、本展を二項対立から逃れさせ、3つの軸により構成されていると感じさせます。この3つの要素が同時に存在する空間というものについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
タトル まずなによりも、この空間を熟知している青木さんのアイデアと深い思考に敬意を表したいです。青木さんは東京オペラシティアートギャラリーの展示室の特性を捉えたうえで、空間を非常にドラマチックに変えるという提案をしてくれました。
その空間の改変によって流動性が生まれ、3つのエレメントがその流れのなかに存在することが可能になりました。本展のもっとも画期的な点は、従来の多くの展覧会が鑑賞者がアーティストから享受するものが多いのに対し、本展ではアーティストが鑑賞者に奉仕するという逆説的な構造を持っていることです。私たちは、鑑賞者にこの空間を楽しんでもらいたいと考えていますが、それと同時に個々の鑑賞者が異なる考えや多様な体験を持ち、完全に個人でありながらも同時にコミュニティの一員であり続けられるということを示したいのです。

鑑賞者とアートのバランスを考えるとき、マイナスとマイナスが倍加する状況に陥ってしまうことがあります。しかし本展では能勢さんの見事なキュレーションのおかげで、そのマイナスの状況をプラス×プラスの状況へと転換することができました。これこそが、世界においても必要とされている変化なのです。
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