「彼女たちのアボリジナル・アート」(アーティゾン美術館)に見る、オーストラリアの歴史と現代美術の現在地【7/8ページ】

作家間や空間におけるシークエンスにも注目

──会場構成についても、ひとりの作家につき十分なスペースが取られていると感じました。展示室が2フロアに分かれているのも同館の特徴ですが、そのあたりの分け方なども意図があればお聞かせください。

 そこは作家選定以上に非常に悩んだポイントです。ただ、かなり早い段階で、マラウィリを最初に展示しようというのは決まっていました。マラウィリは伝統的な図像を描きながらも、それにとらわれない自身の表現を見つけた作家です。そういった意味でも非常に重要な作家ですし、作品のサイズ的にインパクトもある。そこからどのようにほかの作家をつなげていくかが結構苦労したポイントですね。できるだけシークエンスを綺麗に見せたいと思っていましたから。作家ごとに区切ることも考えましたが、コーナーとして完結させてしまうのは嫌だった。ですから、例えば最初にマラウィリのスペースに入ってきたら、すぐ先にジュディ・ワトソンの版画作品が見えるといったように、ある作家の作品の先には別の作家の作品が目に入るような構成を意識しました。

展示風景より、ノンギルンガ・マラウィリ《ジャプ・デザイン》(2018-19)
ケリー・ストークス・コレクション
©︎ the artist c/o Buku-Larrgay Mulka Centre

 ほかにも、ジャンピ・デザート・ウィーヴァーズとエミリー、その先に展示されているスケースは、所属するコミュニティはそれぞれ異なりますが、オーストラリアの砂漠地域出身の作家らの作品です。ですが、表現方法はまるで違うことが分かります。マリィ・クラークの200枚にも及ぶ作品を5階の壁に展示したのは、吹き抜けの先に作品を見せたかったという意図もあります。5階最後のスペースに展示されているサリー・ガボリも早い段階で決まっていて、4階でのコレクション展示とのつながりを意識したりしています。

展示風景より
展示風景より、マリィ・クラーク《私を見つけましたね:目に見えないものが見える時》(2023)
作家蔵(ヴィヴィアン・アンダーソン・ギャラリー)
©︎ Maree Clarke

──なかなか展覧会の構成や導線設計までお話を聞く機会がないので、大変に興味深いです。本展では展示空間によって明るさも異なりますから、そのあたりも細かく意図されたものなのだと感じます。

 非常に鋭いご指摘です。実際とてもこだわっていまして、最初のマラウィリは、作品のスポットライトのみで空間を照らしています。逆にサリー・ガボリの作品が展示された最後の部屋は、すごく明るくしています。というのもガボリが用いる色彩自体が明度や彩度が非常に高いので、黄色みのあるライトを当てたくなかった。そのため、ほかの空間と照明の色温度も変えています。

展示風景より

編集部