グラフィック・デザイナー時代から「画家宣言」を経て、横尾忠則は森羅万象を貪欲に作品へと取り込みながら制作を続けてきた。これまでにも大規模な回顧展や多くの書籍が刊行され、横尾を知るための回路はすでに豊富に用意されてきたと言えるだろう。そうしたなか、横尾忠則現代美術館で開幕した「大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?」は、横尾の世界を時系列やジャンル別に整理するのではなく、「言葉」を起点に横断的に読み解こうとする点に最大の特徴がある。担当学芸員は同館館長補佐兼学芸課長を務める山本淳夫だ。
本展は、各文字に対応する用語、それらに紐づく説明、そして作品によって構成された「辞書」仕立ての展覧会である。用語は横尾忠則の人生や制作、思想と深く結びついた独自性の高い言葉が数多く含まれていおり、横尾を深く知る学芸員だからこそなしえた構成だ。展示は前半がひらがな編(45字)、後半がアルファベット編(26字)になっており、出品点数は計139点(ひらがな編80点、アルファベット編59点)に及ぶ。

辞書の一部を見てみよう。冒頭の項目「あ」に配されるのは「アストラル体」。神智学において人間を構成する精神的身体を意味するこの概念は、横尾が長年抱いてきた死後世界や異界への関心を、具体的な作品とともに読み解く手がかりとなる。《アストラルタウン》(2008)は「Y字路」シリーズの1点だが、現実と異界の境界が曖昧に溶け合うような雰囲気が強い。それゆえに、「アストラル体」由来のタイトルが付けられたと考えられている。

「け」の項目で取り上げられる「原郷の森」では、文学と絵画、そして横尾自身の内的世界が交差する様相が浮かび上がる。2019年から21年にかけて雑誌『文學界』に連載された長編小説『原郷の森』と並走するかのように制作された絵画作品《(原郷の森)》(2019)は、「言葉による作品」と「視覚による作品」が横尾のなかで分かちがたく結びついていることを示している。本作は、1970年に横尾が撮影した写真を参照して描かれているという点も興味深い。

































