「癒しのアート」を支援して10年。その理由と展望は? 神山財団理事長・神山治貴インタビュー

神山財団とは、半導体、サイバーセキュリティなどの最新のテクノロジーを取り扱う技術商社である株式会社マクニカの創業者・神山治貴が2013年に発足した財団であり、次代を担う人材育成を目的として「海外留学奨学金制度」と「芸術支援プログラム」を展開している。「芸術支援プログラム」は今年10周年を迎え、上野の森美術館ではこれまでの奨学生ら55名の作品を展示する記念展「KAMIYAMA ART カドリエンナーレ2024〜4年に一度の展覧会〜」が開催された(9月8日~15日)。この支援プログラムの特徴やカドリエンナーレの開催について、神山理事長に話を聞いた。 ※インタビューはカドリエンナーレ会期中の9月9日に実施。

聞き手・撮影=中島良平

神山治貴

経営者としての経験から支援する「癒しのアート」

──まずは、一般財団法人神山財団が創立されるまでの経緯をお聞かせください。

 1972年に半導体事業を中心とするジャパンマクニクス株式会社(現・株式会社マクニカ)を立ち上げ、曲がりなりにも成功させていただいたものですから、今度は私が社会にお返しをする番だと思い、ひとつのかたちとして考えたのが、人材を育成するための財団です。そこから、2013年に神山財団を立ち上げるに至りました。

──具体的には、「海外留学奨学金制度」と「芸術支援プログラム」のふたつが財団の活動の軸となっていますが、そのように事業設定をされた経緯についてもお聞かせください。

 社会がより良くなっていく、あるいは、健全で強靭な社会になっていくためには何が必要でしょうか。世の中はリーダーで決まると考えています。会社であれば社長、病院であれば院長、学校であれば校長、国家であれば首相です。色々なフィールドで良いリーダーが出れば、より良い社会に変わっていくと考えています。そこで将来グローバルで活躍できるリーダーたちを想定し、海外に留学する社会人を支援する「海外留学奨学金制度」を始めました。例えば、MBAを取得しようとアメリカの大学院やビジネススクールに入るには、相当な額の費用がかかります。入学したら手持ちが5万円しかなかった、などという悲劇も耳にします。そういう人をサポートすることで良いリーダーになってもらえるように応援しています。また、健全な社会には、豊かな芸術文化が欠かせません。そこで芸術支援プログラムをもうひとつの軸として考えました。

──「芸術支援プログラム」は、その理念に「文化の向上・芸術の振興に貢献でき、芸術が本来持つ“癒し”を追求する人材の育成事業」であることを掲げています。これはどのように決められたのでしょうか。また、奨学生の対象は絵画を専攻する大学院1年生とのことですが、この条件設定にはどんな理由があるのでしょうか?

 癒しの芸術を支援しようと思ったきっかけには、ある音楽との出会いあります。経営者や組織のリーダーというのは時として孤独になるものです。相談する人が減ってきてしまったり、ひとりで大きな決断をする必要にせまられたりもします。私自身も現役の社長のときには多忙でストレスを抱えることがつねでしたが、その出会った音楽を聴くと疲れが取れ、リラックスでき活力が湧くという経験をしました。芸術の持つ癒しの力を感じ、何十年経ったいまでも聴き続けています。

 当初は音楽を学ぶ学生を支援しようと考えていたのですが、美大生のほうが金銭的に苦労しているように感じられました。また、私は自身が所有している絵画作品にも癒されてきた経験があるので、絵画を専攻し、「癒し」を感じられる作品を手がける大学院生を支援することにしました。大学院1年生を対象としているのは、大学院に進学する学生は、基本的に将来プロの作家を目指す傾向が強いという認識からです。

──支援プログラムは具体的にどのような内容なのでしょうか?

 財団として資金援助はもちろんですが、奨学生たちの要望をたびたびヒアリングし、作品の展示機会や作家同士のコミュニティづくり、契約や経理に関する勉強会なども実施しています。「お金を出したらおしまい」ではなく、様々な意見を取り入れながら実施を重ねています。

勉強会の様子

編集部

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