プラダ 青山の5階で、プラダ財団の企画による展覧会「PARAVENTI: KEIICHI TANAAMI - パラヴェンティ:田名網敬一」が開催されている。会期は2024年1月29日まで。
本展は美術史家・キュレーターのニコラス・カリナンがキュレーションを担うもので、ミラノのプラダ財団でのグループ展「Paraventi:Folding Screens from the 17th to 21st Centuries(パラヴェンティ:17世紀から21世紀の屏風)」(10月26日〜2024年2月22日)、プラダ ロンツァイ(上海)での「Paraventi」(11月11月3日~2024年1月21日)との同時期開催となっている。
家具であると同時に、日常空間を変容させる「屏風」に着目した本展。メディアやジャンルにとらわれない表現活動を行ってきた田名網敬一(1936〜)が、その歴史や西洋での受容の形態、そして今日的な意味などを洞察しながら、「屏風」をアップデートしている。
会場ではまず、16世紀に制作された式部輝忠の《梅竹叭々鳥図屏風》(六曲一隻、室町時代)を見ておくことをおすすめしたい。輝忠は生没や出自などの詳細は不明なものの、近年は美術史家・山下裕二らによりその画風が再評価されている水墨画家だ。描かれたカラスのような黒い鳥は叭々鳥(ハハチョウ)であり、吉祥を表すモチーフとして古くから花鳥図において流行した。
本作は水墨画が隆盛を極めた中国・南宋の時代より数多く描かれたこのモチーフが、室町時代の日本おいて引き継がれたことを示し、屏風というメディアが大陸から日本へともたらされ、独自の発展を遂げていった歴史を来場者に印象づける。屏風発祥の地、中国の上海での展覧会「Paraventi」ともひとつなぎとなった、屏風という文化のダイナミズムが想起される。
本展のために田名網敬一が制作した屏風《記憶は嘘をつく》(2023)は、屏風の伝統に敬意を払い制作された。屏風に配されたコラージュは、平面的なアメリカのコミックブックや日本のマンガの要素を多分に取り入れており、グラフィック・デザイナーとして日本の紙媒体を舞台に独自の表現を追求してきた田名網の来歴をうかがわせる。同時に、平面が立体化する屏風というメディアは、平面を組み合わせて立体をつくり出す田名網の作品と、極めて相性が良いことも伝わってくる。
「今回の展覧会に挑むまでは、屏風という形式を意識することは少なかった」と語る田名網だが、本作をつくるにあたって多くの発見があったようだ。田名網は屏風と向き合うことで得られたことについて、次のように話してくれた。
「屏風のもっとも興味深い点は、どの角度から見てもその全体を見わたすことができないという点。つねに見えない絵が存在しており、しかしその存在をつねに感じることができる。次回、また屏風の作品をつくるのであれば、この特徴をより活かしたかたちでの絵を描くことに挑戦できそうだ」。
屏風という自身が初めて取り組むメディアと格闘したうえで、さらに新たな表現の可能性を見据える田名網。長年にわたり表現の現場で仕事を続けた作家ならではの貪欲さが垣間見えた。
こうした田名網の話を前提に、デジタルアニメーション作品《赤い陰影》(2021)を見ると、これもまた屏風というメディアを踏まえたうえで、アニメーションを新たなかたちで見せる挑戦であることがわかる。
《赤い陰影》は絵画をもとにしたアニメーションの連作で、本来は80の場面がそれぞれ独自の動きを見せるものだ。各アニメーションの順序は定められておらず、コラージュ作品のように自由に組み合わせることができるとされる。今回の展示においては80のシーンから任意の複数を組み合わせ、それぞれをモニターが同時に映し出している。
上映するモニターはまるで屏風のように角度がつけられ、折りたためるかのうように配置されている。こうしたモニターの配置によって、それぞれ別の動きをする映像を同時に見ることができ、そのゆるやかなつながりが巨大な物語をつくっていくかのような印象を受ける。田名網が「屏風のようなモニター配置をし、複数の映像を同時に上映することで、既存の作品に新たな表現方法を与えた」と語るように、映像表現に新たな展開を与えるという点においても、屏風は大きな可能性を持っていることがうかがえた。
ヘルツォーク&ド・ムーロンによる、プラダ 青山の特徴的なガラス窓の前に佇む金色の飛行機に乗ったクモのような立体作品《人間編成の夢(ブロンズ)》(2020)は、田名網の子供時代の体験から生み出された。田名網は本作のクモについて「疎開先の病床で生死をさまようなかで見た窓辺の巨大なクモ」であると語り、飛行機は「機銃掃射に襲われて眼の前で人が跳ね飛んでいった記憶」と表現した。本作は、田名網の人生における重要な記憶をコラージュすることで生まれた立体作品なのだ。
最後に、カーテンに仕切られた部屋で展開されている《光の旅路》(2023)を紹介したい。開いた本のようなスタイロフォームにプロジェクションマッピングによって田名網の映像をコラージュ的に投影する本作は、平面である映像がマッピングによって立体的な支持体を得たものだ。屏風は、平面に描かれた絵画を床から屹立させることで、立体として空間をかたちづくるメディアだが、現代の技術によってつくられた本作も、屏風と同様に平面を立体化するという目的が果たされていると言えるだろう。
プラダ財団による屏風の可能性の探求を、田名網敬一の創作を通して知ることできる本展。ぜひ、屏風の魅力を会場で再発見してみてほしい。