実像と虚像の間違い探し
── 本展の「間違い探し」というコンセプトにおいて、コピーとオリジナルをどう区別するかということを念頭に置いているのでしょうか。
フィッシャー この場合、両者がともにイメージをつくる。どちらかいっぽうではなく、両方が存在することを残している。両方あるから、本物と複製がひとつのものをつくるんだ。
── つまり、どちらかが実像であるという設定が明確にあるのでしょうか。
フォッシャー そうだね。でもやはり、両方あるから機能する。いっぽうは鏡像で、もういっぽうは実像である。どちらかが劣るモノではない。私にとってこれは、よりイメージの問題だといえる。すべてのことはある意味イメージとして関係していると思うんだ。思考はすなわちイメージなんだ。「バケーション」と言えば、イメージで思い浮かべる。自分自身との関係もある意味イメージだし、なにもかもがある意味イメージだ。そしてイメージも素材なんだ。
── 鏡像やイメージは、精神分析においても重要なテーマです。そのあたりについて、意識されたことはありますか。
フィッシャー そうだね。鏡というアイデアは、自己認識から極端な虚栄心まで、すべてを包含している。鏡がなかった時代の人間は、水面に映る自分を見ていた。でも、それはひとつの方法。想像するといつもクレイジーだと思う。体は見える、手も見える。でも外から自分自身を見ることはできない。鏡を通じて自分と向き合える。でも、外から自分を見ているわけではない。
歯を磨くとき、自分をそういう目で見ているわけじゃない。でも時々そういうことが起こる。年に一度くらい、突然「鏡の中のこの人は誰だろう?」と思うことがある。普段はそういう目的で鏡を使っているわけじゃないけど。だから鏡にはたくさんの異なる意味がある。そうやって、開かれていることが好きなんだ。特定のひとつのことに限定したくない。そこにイメージを持ち込み、作品の中に自分を映す。アートワークとは、まさにそのようにして機能するものだ。
──本展の出品作では、壁の汚れや傷、床に落ちた埃やゴミまでもが作品に取り込まれているのが印象的です。そこでは、作品としての事物と非作品としての事物に価値の階層を設けず、ほぼ等価に扱われているように見えます。一般的には価値を持たないとされるそれらの事物に対して、あなたはどのようにお考えですか。

フィッシャー そう、そこに階層はない。一方か他方かということじゃない。そして、コンポジション(構成)というものが好きなんだ。コンポジションとは、家の中でそうなるように、自然とできあがっていくものだ。家を掃除していると、「これはどこから来たの?」というものを見つける。埃やゴミというのは、どこから来るのかわからないものがある。ドアからではない、どこからか部屋に入ってきて、そこに着地する。何でできているかもわからない。私にとってコンポジションとはそういうもので、よりコズミックなものなんだ。物事が秩序の上に着地していく、そのありようのことだ。
今回のインタビューは展覧会初日の点火前に行われた。《Mirror》は会期を通じて溶け続け、鑑賞者が訪れるタイミングによって作品の印象は大きく異なる。別の日にインタビューをしていれば、内容も何かしら変化していただろうと思う。
フィッシャーの話を聞いて気づいたのは、彼が作品について、具体的な物理的現象や造形のディテールに重きを置いて語るという姿勢だった。例えば、作品が解体されるという性質は、所有や保存をめぐる制度批判へと展開可能である。しかしフィッシャー自身は、そうした議論を理解しながらも、造形の観察と思索を起点として語ることを重視していた。溶けた蝋の滴りがなぜ同じ大きさになるのか。ワックスと身体の柔らかさの類似、部屋の中のゴミや埃のコンポジションなど、それらの観察から自然の秩序と人工的な秩序のぶつかり合いへと思考を広げていく。
別の角度から言うと、彼は作品の意味をひとつに絞ることを好まないといえる。作品とは器のようなものであり、その内容は鑑賞者のなかで生成される。解釈をいわゆる現代美術的なコンセプトのパッケージングで限定することを忌避する意志が言葉の端々に感じられた。
作品が溶け、崩れ、やがて鋳造し直されるという循環的な構造への肯定は、不完全性の美学と自然と人間の調和的なあり方への関心と結びついている。ステンレス製のバルーン・ドッグやガラスケースに収められた新品の掃除機など、ピカピカの状態を保ち続けることに意味を見出すジェフ・クーンズもアプロプリエーションを用いる作家だが、完全性・永遠性を追求するその姿勢とは、対照的な態度だと言える。
インタビューの終盤、フィッシャーは「コズミック」という言葉を使った。物事は誰かが意図して置くのではなく、人間の秩序を超えた宇宙的な次元で自然に着地する。制作や日常のなかで積み重ねられた観察と詩的な表現が絡み合いながら紡ぎ出される宇宙観と哲学が、平易な言葉で語られたことが印象的だった。
*1──アプロプリエーション:既存のイメージや物をそのまま流用・転用し、作品とする手法。1980年代以降の現代美術で広く用いられる。



















