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VOCA賞受賞・戸田沙也加インタビュー:「語られざる者の残響」は、現在そして未来の鑑賞者に何を語りかけるのか?【2/2ページ】

既存の価値観を女性の眼差しで解体する

──この受賞作は、戸田さんにとってどのような作品となりましたか。また、いままでの制作活動におけるこの作品の位置づけや、作品の意図についても教えてください。

戸田 9年という歳月をかけたこともあり、非常に思い入れが深いいっぽうで、生まれるべくして生まれた必然のような作品だと思っています。これまでもこの彫刻家のアトリエをモチーフに、絵画、写真、インスタレーションなど様々な形態で作品を発表してきましたが、訪れるたびに私の感じ方が変化するため、その都度タイトルや内容を変えてきました。

 例えば2024年に参加した「TOKAS-Emerging 2024」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2024)では、本作と同じテーマで30分の映像作品《語られざる者の残響》(2024)を発表しました。大きな白い布を纏った女性が、ヌード台の上で布を切り、裸婦像に被せていくという内容です。布を切った女性は裸体となり、裸婦像は布で覆い隠される。これは一種の「追悼」の儀式でもありました。

「TOKAS-Emerging 2024」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2024)での展示の様子 撮影=加藤健 写真提供=Tokyo Arts and Space
「TOKAS-Emerging 2024」で発表された映像作品《語られざる者の残響》(2024)の一場面 Courtesy of the artist

 本来、これらの裸婦像は「男性の眼差し」によってつくられたものです。私は同じ女性として、彼女たちが置かれた状況を「女性の眼差し」から捉え直し、可視化したいと考えました。裸婦像という「美の象徴」が区画整理による「解体」とともに崩れていく様を見つめながら、慈しみと批判的な視点の両方を持って構成することをつねに心がけています。

──《語られざる者の残響》では、写真と絵画という2つのメディウムが用いられ、画面が分割されています。それぞれが持つ特性をどのように使い分けていますか。

戸田 大学卒業後、社会における圧倒的な男性性の強さに直面し、数年間絵が描けなくなった時期がありました。それまでは男女の境界の曖昧さを描いていましたが、現実の力の差を思い知らされ、その表現が続けられなくなってしまったのです。しかし、そのあいだもスマホで気になった対象を撮ることは続けていました。それがのちに写真展の開催につながり、自分の表現スタイルとして合っていることに気づかされたのです。

 私にとって、写真は「瞬間的な時間の切り取り」であり、そのときの眼差しや俯瞰的な視点です。対して絵画は「イメージの具現化」であり、伝えたいことの核心です。今回の作品でも、写真では朽ちゆく裸婦像の美しさを写し、絵画ではその慈しむような裸婦像の表情を描いています。

横浜美術館で開催された個展「アーティストとひらく 戸田沙也加展 沈黙と花」は、写真作品を中心に、映像、絵画で構成された 撮影=表恒匡 Courtesy of the artist

──戸田さんが作品制作にあたってもっとも大切にされていることを教えてください。

戸田 自分の直感を信じることです。たまたま出会ったものに対して感覚を研ぎ澄ませ、そこから何を感じたかを大切にしています。また、私はつねに「見る人」の存在を意識しています。現在この絵を見ている人、そして未来にこの絵を見る人。その人の記憶に何を残せるかを考えながら、制作をしています。

 タイトルにある「語られざる者」とは、裸婦像のモデルとなった女性たちのことでもあります。美術史のために描くのではなく、彼女たちや作品を見てくれる誰かのために、自分の経験に基づいた対話が生まれる作品をつくり続けたいと思っています。

──最後に、今後の活動や将来の展望についてお聞かせください。

戸田 これからも身近な関係性から生まれる問いを大切にし、目まぐるしく変化する社会を俯瞰的に捉えていきたいです。

 また、私事ですが今年は出産を控えており、環境が大きく変わります。女性アーティストにとって、育児と制作の両立は非常に高いハードルです。大学時代の優秀な仲間たちが、育児を機に一線から退いてしまう姿を何度も見てきました。私自身も不安を抱えていますが、それは多くの若手作家と共有している悩みでもあります。

 私が活動を続けることで、子供を持ちながら表現を続けるひとつの指標になれるよう、柔軟かつ鋭く制作に向き合っていきたいと考えています。

*本稿は、囲み取材と個別取材の内容を踏まえて再構成しています。

編集部