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INTERVIEW - 2018.10.30

杉本博司と榊田倫之が語る新素材研究所。10周年で企画展「新素材研究所・ -新素材×旧素材-」が開幕

現代美術家・杉本博司が建築家・榊⽥倫之とともに2008年に設立した建築設計事務所「新素材研究所」の10年周年を記念する企画展「新素材研究所・ -新素材×旧素材-」が東京・天王洲の建築倉庫ミュージアムで10月21日に開幕した。「旧素材こそもっとも新しい」という理念のもと活動する2人に、旧素材の魅力やそれを使う意義などについて話を聞いた。

左から杉本博司、榊⽥倫之

左から杉本博司、榊⽥倫之

ーー新素材研究所は「旧素材こそもっとも新しい」という理念のもと活動されています。この「旧素材」には様々なものが含まれますが、なぜ旧素材なんでしょうか?

杉本博司 そもそも昔から、大茶人の茶室というのは古材が使われているんですね。もし茶室を本格的につくろうとすると、奈良時代だとかの古材を使うのが最高レベルなんです。これはある程度、古材が手元にないとできない。そしてその古材選びは目が利かないとダメなんです。数千円のものから数百万円のものまでありますから。

「新素材研究所・ -新素材×旧素材-」の会場入り口。右は実物と同じ素材を使用した《護王神社ーアプロプリエイト プロポーション》
護王神社ーアプロプリエイト プロポーション(部分)
護王神社ーアプロプリエイト プロポーションの内部。実物同様、模型からも海の景色が見えるように展示構成されている

ーー「目利き」という意味では、70年代のニューヨークで古美術商としても活動してらっしゃった杉本さんの経験が生きているんでしょうか。

杉本 それはありますね。そういう旧素材を扱うという点で、新素材研究所は設計事務所としてはとてもユニークです。追随を許さない(笑)。

ーー古素材を新築や改築の際に用いるというのは、技術的にも難しいのではと思うのですが、いかがでしょうか?

榊田倫之 技術的にはそれほど難しくはないですね。逆に古素材から習うことが多いんです。例えば、江ノ浦測候所の「明月門」は、室町時代に鎌倉の建長寺派明月院の正門として建てられたもので、関東大震災で半壊したのちに根津美術館の正門として移築されていたものです。これを解体し、組み直したのですが、そうすると創建時の組み方が見えてくる。そういったものを参照していくことが醍醐味だと思います。

杉本 そういう技術的なことを継承していかなくてはいけない。我々が積極的に使わないと消えてしまうものはたくさん沢山ありますから。

会場風景より、当麻寺の古材

ーーそういう古材はどうやって入手しているのですか?

杉本 古材の場合は骨董屋や廃材屋、あるいは銘木(めいぼく)屋のチャンネルがある。売るほうも「素人には売りたくない」となりますから、これもまた目が利かないといけないんですね。

榊田 我々はライフワークとしていろんな場所に行きますから、そこで骨董なり銘木なりを探すことができるのは財産ですよね。

会場風景より、慈雲尊者による扁額「和心」

ーー新素材研究所は今年で10周年ですが、これまででもっとも難しかったプロジェクトを挙げるとするとどれでしょうか?

杉本 それはやっぱり「小田原文化財団 江之浦測候所」ですね。これをつくるためにほかの仕事で実験させてもらったようなものです(笑)。まだまだこれからも続きますからね。将来的には古美術を展示する「古美術棟」や、300人程度を収容できる劇場などユニークなものを考えています。

会場風景より、「小田原文化財団 江之浦測候所」の模型

ーー杉本さんは「建築家が設計した美術館は使い勝手が悪い」とよく仰います。今回の会場にも「建築家の理屈とアーティストの使い勝手の相反する空間」という言葉が書かれていますが、実際にご自身が建築家の立場になり、その「建築家の理屈」を理解できる部分もあるのでしょうか?

杉本 建築家が美術館を設計するとき、「アートがよく見える」とか「作家が何をしたいか」ということは念頭にないんですよね。展示してみるとわかりますが、ライティングも雑なところが多い。そういう(使い勝手が悪い)ものをすべて薬籠中の物にして設計したのがMOA美術館なんです。ここはガラスの反射もなく、作品がとてもよく見える。

 ただ、文化庁とのバトルはありましたが(笑)。畳の上でお茶道具を見せたいと言ったら「ダメだ」と言うんです。い草からガスが出ると。

榊田 建築はそういった制約があるなかで解いていくものなんですね。でも杉本さんは最初に明確なビジョンがある。コンセプトが明快です。

杉本 (MOA美術館は)展示ケースの中を白漆喰で塗りたいと言ったらそれも「ダメ」だった。

榊田 昔のお寺なんかで、気密性のないところで畳の上に茶道具を置いて、白漆喰を塗るのはいいのですが、高気密な現代の空間では排除せざるをえない。進化したようで失われたものも多いんです。

会場風景より、MOA美術館の模型

ーーいまの日本、とくに東京はオリンピックに向けてスクラップ&ビルドが加速していますよね。このような状況に対してどういうお考えをお持ちですか?

杉本 例えば、黒川紀章の中銀カプセルタワービルなんて廃墟化しつつありますが、僕は感無量なんですよね。味わいがあるというかモダニズムの亡霊が漂っているような。

榊田 僕は反対で、新しくつくられていく街並みが好きなんです(笑)。東京はある種しかたがない部分がありますよね。ヨーロッパと比較すると歴史的な文脈も全然違いますから。発展していく「都市の良さ」みたいなものを見たいという気持ちです。

会場風景より、新素材研究所のシグネチャーデザインでもある光学硝子

ーーインタビューの事前に行われたギャラリートークでは、「21世紀型のアートは建築とアートが一体化していく」と仰っていたのが印象的でした。

杉本 大規模なものにはならないと思いますが、場所との関連で構築物が生まれるという流れはあると思います。もちろん、住める住めないとかいう観点ではなく、インスタレーションの大規模化によって建築的になっていく。

榊田 僕たち建築家は課題を解いていく道筋を立てる作業。でもアートは僕の中にまったくなかった発想をもたらしてくれます。建築は様式が先にあるから、杉本さんみたいにジャンプする世界になかなか行けないんですよね。

杉本 ガラスの茶室(《聞鳥庵》)なんてのはかなりジャンプしてるよね(笑)。

会場風景より、《茶室 聞鳥庵》の模型

ーーそういう意味では現代美術家と建築家のコンビは相性が良いですね。

杉本 そうそう。相互補完的ですね。

ーー10周年を迎えて、新素材研究所はどこに向かうのでしょうか?

杉本 江之浦測候所をつくり続けるということですね。その裏でクライアント・ワークとしてユニークなものもやっていくと。自分たちが抱える「職人集団」みたいなものができつつあるし、仕事のキャパシティもだんだんわかるようになってきましたから。もちろん、「江戸城再建をやれ」と言われても困りますけどね(笑)。

会場風景より、2019年開館予定の「清春芸術村ゲストハウス」の模型