気鋭の建築家・田根剛の大規模個展が東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。
1979年東京生まれの田根は、2006年にイタリア人建築家のダン・ドレル、レバノン人建築家のリナ・ゴットメとともにDGT.(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)をパリで設立(17年に解散、現在はAtelier Tsuyoshi Tane Architectsで活動)。これまでエストニア国立博物館(2000年開館)をはじめ、フランス、スイス、レバノン、日本において数多くのプロジェクトを手がけている。
今回開催される「未来の記憶 Digging & Building」は、場所をめぐる「記憶」を掘り下げ、飛躍させる手法によって生み出された「エストニア国立博物館」「古墳スタジアム」など、田根の代表作から最新プロジェクトまでを大型の模型や映像で体感的に展示するものだ。
田根は本展開幕にあたり、「展覧会をやるというのはいままでの仕事だけじゃなく、これから自分たちがどこに向かうのかということに向き合う大切な機会となった」とコメント。「エストニアのコンペで勝ったときから、『場所には記憶があり、それを掘り返すことで建築が生まれてくる』という思想で建築と向き合ってきました。展覧会はひとつの時代をつくる場だと思う。今回の表現を通して、次の仕事に向かっていきたい」と話す。
では会場がどうのように構成されれているのかを見ていこう。
展示は「記憶の発掘」と題した部屋から始まる。ここで鑑賞者を迎えるのは、壁と床を覆い尽くすイメージの数々。これらは「IMPACT(衝撃は最も強い記憶である)」や「TRACE(記憶は発掘される)」など12のテーマに分けられており、田根がどのプロジェクトにおいても実施するイメージとテキストを使ったリサーチの手法、Archaeological Reseach(考古学的リサーチ)を立体的に体感できる空間となっている。
これを抜けると、一転して映像の部屋となる。ここで流れるのは、アーティスト・藤井光が撮影したエストニア国立博物館の映像だ。映像には博物館内部のオフィスや収蔵庫など、普段は見ることができない場所が収められており、じっくりと鑑賞したい。
本展でもっとも巨大な展示室には、田根が手がけた、あるいは進行中の7つのプロジェクトの模型・資料が並ぶ。圧巻なのは、10メートルにおよぶエストニア国立博物館の巨大模型だ。ソ連時代の旧軍用施設の滑走路を博物館へと生まれ変わらせたこのプロジェクトは、「場所の記憶」から建築を考えるという現在の田根のテーマのきっかけとなっている。
もちろん、このほかにも見どころは多い。2012年の新国立競技場国際デザイン・コンクールで11名のファイナリストに選出された「古墳スタジアム」、2020年開館予定の(仮称)弘前市芸術文化施設、京都十条で進行中の複合施設「10 kyoto」など、いずれも田根のキャリアにおいて重要なプロジェクトが並ぶ。
展示の最後を締めくくるのは、田根の軌跡そのものだ。2004年以降、田根が手がけてきた建築や舞台美術など多数のプロジェクトが、実現しなかった案も含め網羅的に紹介されおり、30メートルのコリドールを歩きながら、田根の挑戦の足跡をたどることができる。
場所にまつわる記憶を様々な角度から分析することで新たな系譜をつくり、未来につながる建築へ展開させるという稀有な建築家・田根剛。田根にとって、ひとつの大きなターニングポイントとなであろう本展をチェックしてほしい。