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杉本博司(新素材研究所)による展示空間の再生。MOA美術館はどう変わった?

尾形光琳の国宝《紅白梅図屏風》をはじめ、約3500点の古美術コレクションを有する熱海のMOA美術館がリニューアル。杉本博司と榊田倫之が主宰する新素材研究所により、名品の数々の魅力を最大限に引き出す空間が完成した。

展示室内の中央に壁を設け、対面する展示ケース内の照明が映り込むのを抑えている Photo by Masaki Ogawa Courtesy of MOA Museum of Art

古美術を世界一美しく見せる美術館、誕生

 相模灘を眼下に熱海の山頂に佇むMOA美術館。梅の咲く時期に特別公開される尾形光琳の国宝《紅白梅図屏風》などの古美術コレクションで知られる同館の内装リニューアルを、現代美術作家、杉本博司が榊田倫之とともに主宰する新素材研究所が手がけた。

 今回の依頼は館長・内田篤呉のたっての願いよるもの。同所の手がけたロンドンギャラリー(六本木)を訪れた際、その古美術を生かす空間に魅了された。常々MOAの所蔵品に親しんでいた杉本は、即座に了承したという。

照明は、自然光を再現すべく光学設計されている
Photo by Masaki Ogawa Courtesy of MOA Museum of Art

 新素材研究所はこれまで静岡県三島のIZU PHOTO MUSEUMなど幾度も内装は手がけてきたが、3000を超える所蔵品を持つ規模の美術館に取り組むのは初。そこで杉本が目指したのは、近代以前の人工照明がない時代に、名品の数々がどのような自然の光の中で見られていたかを想像し、近代建築においてそれを再現することだった。

 規制の多い設えの仕様など、不自由は多い。そんななか、紙でつくられた畳や屋久杉を用いて免震機能を備えた台座を一から設計。そして黒漆喰を施した壁で空間を仕切って展示ガラスの存在を限りなく消すというシンプルな解決法により、作品と鑑賞者の距離を、時間的にも空間的にも一気に縮めることに成功した。鑑賞者は漆黒の闇の中で、中世・近世の人々の眼差しと息遣いを、古物を介して追体験することができるのだ。それは杉本の写真作品を前にしたときに味わう感覚とも通じるものがある。古美術蒐集家であり、建築家であり写真家である杉本でこそ実現しえた空間であると言えよう。

野々村仁清による国宝《色絵藤花文茶壺》のために、新たに設えられた部屋
Photo by Masaki Ogawa Courtesy of MOA Museum of Art

 リニューアル記念展では、コレクションとともに、杉本の代表作「海景」シリーズや、《紅白梅図屏風》を本歌取りした《月下紅白梅図》《加速する仏》などが、同館コレクターへのオマージュのように、呼応しながら展示されている。

 現在、小田原でも、舞台や茶室、展示室などを備えた芸術文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を建設中だ。杉本の集大成になるであろうその空間に、足を踏み入れることが待ち遠しい。

内装リニューアルを手がけた新素材研究所の杉本博司(左)と館長の内田篤呉(右)
Photo by Masaki Ogawa Courtesy of MOA Museum of Art

(『美術手帖』2017年4月号「INFORMATION」より)

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