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「芸術家を生涯支える」という発想とは。フランス「芸術家財団」が50年かけて築いた創作のインフラ【4/5ページ】

芸術家に「引退」はあるのか?

 年齢を重ねた先に、芸術家の創造はどのように続いていくのだろうか。一般社会では、退職は職業生活の区切りを意味する。しかし芸術家の場合、年齢を重ねることが必ずしも創作活動の終了を意味するわけではない。フランスの芸術家・作家制度では、退職後も条件に応じて創作活動を継続し、作品販売や著作権収入など芸術活動に由来する収入を得ることができる(*4)。芸術家の家の入居者のなかにも、作品販売や著作権収入を通じて、社会とのつながりを保ち続ける人々がいる。

 その姿を具体的に示すのが、入居アーティストによる展覧会プログラムだ。現在開催されているのは、1939年にロンドンで生まれ、カナダや英国、フランスを拠点に活動してきたアーティスト、コゼット・ド・シャルモワ(Cozette de Charmoy)の個展「Collage, Poésie, Révolte(コラージュ、詩、反抗)」である。フェミニズム、エコロジー、反戦思想、権力構造への批評など、彼女が長年取り組んできたテーマを紹介している。

 パリで所属する画廊Loeve&Coを通じて財団を知り、2025年9月から芸術家の家で暮らす彼女は、視力や健康上の問題から、以前のように手を動かして制作することが難しくなった。それでも創作は途切れていない。本稿のインタビューでも「創作が私から離れたことはありません。いまも頭のなかで作品を思い描き、イメージや詩を組み立てています。たとえ物質的なかたちを取ることができなくても、創作は自由の空間であり続けるのです」と語った。

 芸術家の家で行われる展覧会は、入居者の余暇活動ではなく、作家としての歩みを改めて社会へ提示する機会でもある。財団は展示制作、輸送、保険、出版物などを負担し、入居者本人や家族との対話を重ね、現代美術センター MABAとも連動し年間3本の展覧会を企画する。芸術家財団のロランス・メニエ(Laurence Maynier)事務局長は、このプログラムについて、入居者が「EHPADの居住者である前に、再び芸術家としての自分の場所を取り戻す」重要な機会だと説明する。

 また、同じ敷地内にあるアトリエの作家や、現代美術センターMABAに招かれるアーティストなど、異なる世代の創造者が出会い、交流する機会づくりにも力を入れているという。メニエ事務局長は、「芸術家たちこそがこの場所の存在理由であり、その意味をかたちづくる主体」であると続ける。さらに財団では、1945年以降に芸術家の家で暮らした国内外出身の作家たちのアーカイブ整備にも取り組み、研究者や美術機関との連携も進む。美術史のなかで十分に評価されてこなかった作家、とりわけ長く周縁に置かれてきた女性アーティストの再評価にもつながっている。

*4──参照: https://www.secu-artistes-auteurs.fr/artiste-auteur/mes-evenements-de-vie/retraite/age-et-montant-de-la-retraitehttps://www.lamaisondesartistes.fr/site/la-retraite/https://www.cnap.fr/vie-professionnelle/cumul-dactivite 

コゼット・ド・シャルモワが1992年に制作したセリグラフィー作品《Battlefieldlist》 Courtesy of Maison nationale des artistes
コゼット・ド・シャルモワ「Collage, Poésie, Révolte」展の展示風景 Courtesy of Fondation des Artistes Photo © Vanessa Silvera

編集部