私財を未来の芸術支援へ──「芸術家財団」の誕生
このような場所はいかにして80年にわたり維持されてきたのか。その鍵となるのが「芸術家財団(Fondation des Artistes)」である。1976年、フランスの初代文化相アンドレ・マルローのもとで文化政策に携わったベルナール・アントニオズの主導により、「国立グラフィック・造形芸術財団(Fondation nationale des arts graphiques et plastiques)」として設立された同財団は、芸術支援を目的として残された複数の遺贈を統合し、長期的な活動基盤を築いた。現在は公益認定財団として、「芸術家の家」をはじめ複数の施設や支援制度を運営している。
その中心となったのが、前述のスミス姉妹によるノジャン=シュル=マルヌの邸宅と敷地、そしてフランスに残ったロチルド家の一員であるサロモン・ド・ロチルド男爵の妻、アデル・ド・ロチルドが1922年に遺贈した、パリ8区のオテル・サロモン・ド・ロチルド(Hôtel Salomon de Rothschild)である。こうした遺贈の背景には、私的な富を公共的な利益へ還元するフィランソロピーの伝統、そしてそれを芸術支援へ結びつけるフランスに根付いたメセナ文化がある。今日では、同館に芸術家財団の本部が置かれるとともに、芸術関連団体のオフィスやイベントスペースとしても活用され、財団の活動を支える収入源のひとつとなっている。

より具体的には、芸術家財団の年間予算は約780万ユーロ(約14億4300万円)で、その財源は不動産収入(約260万ユーロ)、EHPAD運営に伴う収入(約420万ユーロ、行政機関による介護関連の支援を含む)、寄付・メセナおよびその他収入(約100万ユーロ)によって構成される。国家による直接的な運営補助に依存するのではなく、寄贈された資産を管理・活用しながら、芸術家の活動を持続的に支える独自のモデルを築いてきた。
2025年12月に理事長に就任したシャルル・ギヨ(Charles Guyot)は、アートコレクターでもあり、金融・不動産分野でキャリアを築き、2019年から財団理事として運営に携わっている。50周年を迎えるにあたり、ギヨは「美術手帖」の取材に対して「補助金に依存しない資金面での独立性こそ、次の50年を構想するうえで重要な強みである」と語る。同時に、こうした寄付文化を次世代へ継承するため、新たな寄付者や遺贈を呼び込む重要性も強調する。実際に近年では、ADAGPなどの著作権管理団体や、医師ソヴール・ブクリス(Dr. Sauveur Boukris)、ギャラリストのサラ・パンソン(Sarah Pinson)ら民間の支援者も加わり、今日も芸術家を支える仕組みは更新され続けている。




















