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レンガ倉庫が現代美術館へ。田根剛がデザインする弘前市芸術文化施設(仮)が2020年に開館

青森の城下町・弘前に2020年度を目指し、現代美術館「弘前市芸術文化施設(仮)」の建設が進められることが発表された。既存の赤レンガ倉庫を再利用する。

外観イメージ。左からC棟、A・B棟 ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

|産業遺産をクリエイティブ・ハブへ

 青森を代表する史跡・弘前城からほど近い、弘前市吉野町。ここにある「吉野町煉瓦倉庫」が、2020年に現代美術館へと生まれ変わる。

 「吉野町煉瓦倉庫」は、明治期にシードル(リンゴ酒)工場として建造されたもので、第二次大戦後に吉井酒造に引き継がれて倉庫となったもの。かつて、奈良美智が3回にわたり個展を開催した場所として、その存在を知っている人も多いだろう。近隣には弘前城や前川國男が設計した弘前市民会館などもある、文化的なポテンシャルが高い地域に位置する。

現在の吉野町煉瓦倉庫

 ここを「弘前市芸術文化施設(仮)」と称した現代美術のクリエイティブ・ハブへと生まれ変わらせる計画の概要が、11月27日に明らかにされた。

 同施設の基本理念とミッションは、「きわめて先進的な内外のアートの紹介の場」「現代の科学技術やデザインの発展を若い人々とシェアすることができるクリエイティブハブ」「地域の住民がアートやデザインを学び、集うコミュニティのための場」「所蔵品、レジデンス事業、企画展という3つの機能をつなぐ基盤」の4つ。

 事業は、今年5月に発足した「弘前芸術創造」(代表=平出和也。スターツコーポレーション、大林組、NTTファシリティーズ、エヌ・アンド・エーなど8社が共同出資)が行う。総合アドバイザーに森美術館館長の南條史生、建築設計に田根剛を迎え、官民連携(PFI=公共サービスの提供を民間主導で行う事業)でつくりあげていくものだ。事業費は建築改修、施設整備と、開業から15年間の運営費、維持管理費などあわせて約42億円で、約6万7000人の年間入館者数を見込んでいる。

「弘前市芸術文化施設(仮)」外観イメージ ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

 弘前市長の葛西憲之はこの新たな文化施設の誕生について、「(吉野町煉瓦倉庫を)アートの拠点として整備し、街に活力を生み出すことは市の責任。レンガ倉庫を美術館に変えることはあまり例がなく、非常に難易度が高いチャレンジですが、驚きと感動に満ちあふれる施設にしたい」と意欲を語る。

左から南條史生、葛西憲之、平出和也、田根剛

|新たなエコシステムを目指す

 では「弘前市芸術文化施設(仮)」の具体的な中身を見ていこう。まずその骨子となる運営方針について、総合アドバイザーの南條はこう説明する。「いま、文化施設をつくるときには、社会からの要請を考えていく必要があります。いまの日本で地域が文化施設をつくることの第一義は地域活性化ですが、その『活性化』にはいろいろな意味合いがあり、経済の活性化、アートによるまちづくり、ものづくり支援などを考えなくてはいけない」。

会見に登壇した南條史生と平出和也

 南條が強調するのが、「新しいエコシステム」の必要性だ。たんに作品を展示する場所ではなく、世界中からアーティストを招聘し、地域の人々と交流し、作品を制作・展示。そしてその作品を収集(コレクション)する。この一連の流れを確立させ、様々な文化活動が生じた結果として、新しい文化が醸成されることを狙うという。

 また、南條は同施設の計画方針に、「サイトスペシフィック(場所性)」と「タイムスペシフィック(時間性)」の2点を挙げる。その場所の固有性を生かした「サイトスペシフィック」については、多分に前例がある。いっぽうの「タイムスペシフィック」とは何を意味するのか? 「この限られた空間を多様なニーズにあわせてどう使い分けていくか。それぞれの部屋を時間でシェアすることで解決していこうということです」。既存建築という制約のなかで、美術館を運営していく上での工夫だと言える。

展示室1のイメージ ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

|田根剛が日本で初めて手がける美術館

 その「サイトスペシフィック」と「タイムスペシフィック」を同時に可能にするのが、建築設計だ。レンガ倉庫という特殊な条件下でここをリノベーションするのは、2016年10月に開館したエストニア国立博物館を手がけた気鋭の若手建築家・田根剛。日本では初となる美術館建築について、次のように話す。

設計について説明する田根

 「これからは、歴史ある建物の文化の深みを新しい時代のかたちに変えていく。これだけ老朽化した建物は耐震性も含めて非常に難しいですが、この質感を最大限残し、改修していきます」。この歴史を継続するコンセプトについて、田根はイギリスのテート・モダン(元火力発電所)など、産業遺産を活用した美術館事例にも言及。単純に本来の建物にデザイン性を付加するのではなく、歴史の継続性を重視し、改修を行うことの意義を強調した。

現状の倉庫内部。大空間が広がっている

 田根にとって「美術館」とはなんなのか? この問いに対して田根はこう答える。「美術館の魅力は時代の未来をつくる場所だということ。アーティストもそのチャレンジをしていると思うし、それを見せるための空間や場のあり方にはまだまだ可能性があります。ホワイトキューブは一つのスタンダードではありますが、いっぽうで来なくては体験できないようなサイトスペシフィックな空間のあり方は、美術と建築の融合だし、まだまだ未来があると思います」。

展示室2のイメージ ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

 今回の美術館で「日本の建築の今後に可能性を示したい」という田根。「建築は記憶を引き継げるのか、というチャレンジだと思います。建築は記憶装置なので、これまでのレンガ倉庫と、これからの設計による建築と、アーティストが使うことで生まれる記憶が折り重なることに意味がある。一筋縄ではいきませんが、これからの日本、とくに地方で建築をつくることの意義じゃないかなと考えています。『新しい』という価値だけではない未来や可能性を示さなければいけません」。

現状の倉庫内部

|記憶を継承し、再生する

 では具体的な建築計画を見ていこう。まず目を引くのが屋根だ。屋根は、シードルの色を喚起させる「シードル・ゴールド」の屋根葺になり、太陽光によって様々な表情を見せる新しい風景が生み出される。傷んだ外壁は赤レンガで新たに覆われ、現在の姿が継承されるという。懸念されている耐震性については、レンガの中に鉄のロットを埋め込むという日本ではあまり例のない工法によって、耐震化される。

シードル・ゴールドの屋根が新たな美術館のイメージをつくる ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS
俯瞰イメージ ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

 建物はL字型のA棟・B棟とC棟の3棟構造。エントランスがあるA棟には3つのスタジオ(1階)とライブラリー、ワークラウンジ(2階)があり、コミュニティースペースとしての意味合いが強い。A棟から続くB棟には、高さ15メートルの展示室をはじめとする5つの展示室が創出され、真っ黒なコールタールの壁を生かしたスペースなど、ホワイトキューブとは異なる空間が特徴的だ。また、C棟にはカフェやミュージアムショップが入り、市民に開かれた場所になる。

15メートルの大空間が広がる展示室3 ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

 そして大きな特徴となるのが、A棟・B棟とC棟の間に誕生する「ミュージアム・ロード」だ。レンガ敷きのこの道は、市民が活用できるパブリック・スペースとなるとともに、様々なプログラムが展開可能な場所として機能。周囲からの導線としても重要な役割を果たすという。

外観イメージ。左からC棟、A・B棟。2棟の間に「ミュージアム・ロード」が設置される ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS
2階に誕生するライブラリー ©ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

 なお、同施設では年間に2〜3本の現代美術を中心にした企画展を実施予定。企画展とコレクションは「赤レンガ倉庫の建築と対話し、新たな創造性を喚起する作品」「弘前・東北地域の対話を促し、その自然、歴史、物語を素材とする作品」「人々に現代における新たな創造性を喚起させる作品」の3つが柱となる。

 2020年4月に開館を予定する「弘前市芸術文化施設(仮)」は、美術館の新しいあり方を示すことができるだろうか。

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