新しい美術館に息吹を吹き込むパン人間
母・男代(おだい)を介護すること自体をアートにし、《スモール・ママ+ビッグ・シューズ》(1997)や、《アート・ママ+息子と大きいパン》(2012)などを発表してきたアーティスト・折元立身。8月26日に全面開館した富山県美術館では、国内外で活躍するアーティストの作品を展示する「アーティスト@TAD」第1弾として、折元の個展「Reality of LIFE」がスタートし、初日に「パン人間」のパフォーマンスが行われた。今年5月に男代が98歳で他界して以来、初の「パン人間」。そこで折元は何を語ったのか。
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折元は1946年神奈川県川崎市生まれ。71年にカリフォルニア・インスティテュート・オブ・アートを卒業後、ニューヨークへ移住。ビデオ・アートの開拓者として知られるナム・ジュン・パイクの助手を務め、フルクサスへの参加を経て、2001年には第49回ヴェネチア・ビエンナーレに参加。これまで国内外で多数の作品発表を行ってきた。
そんな折元のトレードマークとも言えるパフォーマンスが「パン人間」だ。91年に日本で初めて行われ、その後、世界各地を旅した「パン人間」。これは美術館や街中を舞台に、頭部全体にフランスパンをつけた折元が練り歩き、その場所に居合わせた人々と交流するというもの。ではなぜ折元はパンを身につけるのか? キリスト教文化圏でパンは「イエス・キリストの肉」を表すと同時に、食べ物の代名詞。世界中どこにでもあり、身近なパンの存在は、見る者によって多種多様な解釈が可能な物でもある。折元はこの生命に関わる食べ物=パンになりきることで、鑑賞者から多種多様なリアクションを引き出してきた。
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「私たちはパン人間であり、人間様ではありません!」
開館記念パフォーマンス「パン人間@TAD」では、事前に一般から参加者を募集。全面開館を迎えた8月26日に、折元と約20名の参加者が扮するパン人間が館内に現れた。開館時間の13時に一般来館者らが入口をくぐると、そこではパン人間たちがお出迎え。来館者たちは驚きつつ、その様子を楽しんでいた。
「私たちはパン人間であり人間様ではありません! みなさん忘れないでくださいね!」 そんな宣言を高らかに謳いながら、折元を先頭にしたパン人間たちは館内を1階から2階、3階、そして屋上へと練り歩いく。そして、《パン人間の息子+アルツハイマー・ママ》(1996)を引き伸ばした垂れ幕の前で折元は参加者たちにこう語りかける。「私は死ぬまでこのパフォーマンスを続けるつもりなんです。それは今年亡くなったおばあちゃん(男代)と約束したんです」。
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パフォーマンス参加者の一人は「ちょっとイタズラに参加しているような感じもあり、子供に返ったようで楽しかったです」と笑って話す。折元が巻き起こしたアートを通じたコミュニケーションは、新しい美術館にこれまでにない息吹を吹き込んだようだ。
なお、「Reality of LIFE」では、過去に「パン人間」のパフォーマンスで使用されたフランスパンのほか、「アート・ママ」シリーズの写真作品や、映像なども展示。折元が母・男代に寄り添い、生きてきた軌跡をたどってみてはいかがだろうか。
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このほか同館では、開館記念展として「生命と美の物語 LIFE - 楽園をもとめて」が開催中。「子ども」「愛」「日常」「感情」「夢」「死」「プリミティブ」「自然」という8つの章で、ルノワールなどの印象派から、ピカソなど20世紀のモダンアート、青木繁、下村観山などの日本近代絵画、折元立身、三沢厚彦などの現代美術まで、約170点の作品を展示。生命と美の深い関わりを考察したい。
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