そうしたなか、彼にとって、唯一の静寂な避難場所こそが、絵を描くことだった。幼稚園や小学校の頃から暇さえあれば、ひたすら描き続けてきた。とくに、小学生の低学年の頃からすでに、画面をコマで区切るような漫画的な表現を試みていた。

彼の創作の真価は、その誰にも止められない内なる力と圧倒的な量にある。これまで描いてきた絵は数千枚に及び、一度描いた作品を見返すことはない。多くのモチーフが、アニメやゲームの影響を受けつつも、彼自身の記憶と内面で再構築され、何も見ずに瞬時に描き出していく。また、その創作を支えるのは、モノのかたちを的確に捉える高い描写力だ。とくに、鉛筆の濃淡だけでなく、消しゴムで消して光を表現したり、繊細なグラデーションを描き出したりする独自の技法は、彼の表現に奥行きと豊かさをもたらしている。
彼の創作の源は、日本のアニメや漫画といったメディアから多くの着想を得ている。父が入手してくる英語版のアニメや、画中に描かれたキャラクターから推測される『となりの山田くん』や『パンダコパンダ』など日本の作品がそのモチーフとなっている。いつの間にか、リビングのテレビは彼専用となり、つねに何らかの映像が流れているのだという。
また、Nintendo SwitchやWiiなどのゲーム機を自在に使いこなすデジタルネイティブ世代である彼は、自身が没頭するゲームや映像からも多くのモチーフを得ている。その源泉は多岐にわたり、様々な国を冒険するNintendo Switch用の3Dアクションゲーム『スーパーマリオオデッセイ』は、彼に世界の国々に関する知識をもたらしている。ときに、それは現実世界の情報にも及んでいる。例えば、画中で「Gold House」の記載がある建物は、修学旅行で訪れた金閣寺をモチーフにしている。こうした情報源のうち、『ゴジラ』のような映像作品や『悪魔城ドラキュラ』といったダークな要素が、彼の世界観を構築するのに強く影響しているようだ。彼はこれらを、何も見ずに瞬時に描き出していく。
そして何より圧巻なのは、彼の創作衝動がたんなる絵画制作に留まらない点にある。彼の作品には、小学校の頃のイラストにすでに『TODCi』という文字が見られ、彼の作品の複数枚に『TODCi ANiMATiON WORLD』という表記があり、これが架空のアニメ会社ではないかと推測されている。この事実は、母親をはじめとする家族も知らなかったが、現在、NPO法人BLUEの伊藤愛さんと澤拓郎さんによって分析が試みられている。
冬馬さんとのコミュニケーションは、質問に対するオウム返しがあるため、彼の真意を推測することは困難を極める。そのうえ、彼が生み出した架空の「映画」のフライヤーは現在9作まで確認できるものの、価値を知ることのなかった家族らによってすでに処分されてしまったものもあるため、その全貌を解明することは極めて難しい状況にある。

しかし、その残された作品群からは、「主人公のCOK(コック、狼のキャラ)とTOD(トッド、冬馬さんのアバターと思われる)が悪の組織Villayと戦う冒険活劇を舞台とし、物語の企画、漫画、詳細なキャラ設定、そして映画とそのフライヤーまですべてを独力で制作している」という全体像が浮かび上がってきている。作品には1980や2005という文字もあり、TODの父親または祖父と推測されるFARD(ファード)という人物も頻繁に登場することから、世代を超えた壮大な歴史物語である可能性も否めない。





















