生活と創作のどちらもなければやっていけない
愛知県瀬戸市は人口10数万人、名古屋郊外の小都市だ。やきものの町として千年に及ぶ歴史を持つが、近年は地場の陶磁器産業が下火で、活気にあふれているとは言いがたい。現代日本の典型的な「地方」とみなしていいのではないだろうか。
そんな町の中心からやや外れたロードサイド、商店と住宅が混じり合う地に横山奈美のアトリエはある。
もともとはスーパーのストック置場だった倉庫。外観はかつての姿そのままであり、少々入りづらい雰囲気が漂う。トラック寄せの脇にある扉をそっと開ける。と、内部は広々として意外なほど明るく開放的。整頓された空間の白い壁面に、ネオンサインを描いた絵画が並んでいた。《NEON - Shape of your words-》シリーズの制作が進行していた模様だ。
岐阜県出身の横山さんは、愛知県立芸術大学の卒業生。なじみのある愛知県に制作拠点を構えようとほうぼうを探し、現在の物件に行き着いた。
「人里離れた静かな土地もいいですが、私としてはもう少し人の気配があって、地元の方々との交流もほどよくあるような場所にしたかった。ここはスーパーにドラッグストア、書店にマクドナルド……ひと通りの店が近くにそろっていて便利。道路を挟んで喫茶店もあるので、ふらりコーヒーを飲みに行ったりもできる。心地よく過ごせていますね」。
「生活の匂いのあるところ」というのがアトリエ選びの基準になっていたようだが、これは至極納得がいく。というのも横山さんの作品のモチーフは、ふつうの生活のなかに転がっている何気ないものであることが多いから。
「そうですね、例えば《The first object》なら、トイレットペーパーの芯とかフライドチキンの骨といった日常で見つけたものを画面に描き込んでいます。《NEON - Shape of your words-》も、町で見かけたネオンを描きたい!と感じたところから始まっています。つまり私にとっては、出かけた帰りに惣菜店に寄ってチキンを買うとか、商店街の道端にゴミが落ちているのに目を留めるといった日常の体験が、作品をつくるうえでも不可欠ということ。生活と制作を切り離して考えてはいるんですが、作品が自分の生活や環境、過去の経験と分かちがたく結びついているのもまたたしかですよね」。