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書評:過去のアクティビズムの実践を現在につなぐために。『アクティビズムのアート/アートのアクティビズム「抵抗する表現」の軌跡と行方』

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート本を紹介。2026年1月号では、グレゴリー・ショレットによる『アクティビズムのアート/アートのアクティビズム「抵抗する表現」の軌跡と行方』を取り上げる。アート・アクティビズムの入門書にもなりうる本書について、美術批評家・中島美緒が評する。

文=中島美緒(美術批評)

過去のアクティビズムの実践を現在につなぐために

 近年、アート・アクティビズムへの関心が日本国内でも急激に高まっている。悪化する世界情勢や不安定な政局を反映しているのだろうが、いまやアートワールド内の慣習に安住する生産者/消費者たちも、政治的・社会的イシューに無関心を決め込むことはできないかのようだ。

 他方、アート・アクティビズムの運動は一過性の事件として扱われやすく、歴史化・言説化を見据えた長期的なスパンで検証する機会があまりにも少なかった。体系的な言説が足りない状況下で、私たちは過去のアート・アクティビズムの実践から何を継承できるのか。この不足の感覚を補うのに、本書ほど格好の入門書はない。

 著者はニューヨークを拠点とするアーティストで、社会芸術の理論にも通じた著述家。正統な美術史においては認知されにくいアート・アクティビズムを、宇宙空間で観測困難な「ダーク・マター」に準え、アクティビストたちの活動に付随して生まれた視覚文化の貯蔵庫を「幽霊(ファントム)アーカイブ」と呼ぶ。幽霊アーカイブから引き出される過去のアクティビストたちの抗議美学は、まさしく幽霊のように何度でも蘇って現代のアーティスト/活動家たちに取り憑き、彼・彼女らを行動へと駆り立てるというわけだ。これらはリアルタイムの事象への即時反応が求められるアクティビズムを論じるには随分と反動的な概念に思えるが、集団が生み出す無意識も含めた力を考察する際には有効な骨組みと思われる。

 本書が入門書として優れている理由は主に2つ。まず、シチュアシオニスト・インターナショナル(SI)を起点に、1960年代から2020年代までのアート・アクティビズムの変遷が手際よくまとめられていること。次に、非西洋圏も含めた有象無象の運動体をこまやかにピックアップしていること。いくつもの固有名詞が生まれては消えていくが、活動のスタイル(例えばSIによる都市空間の漂流と盗用の手法)をひとつとっても、時代を超えて引き継がれていることが明確に伝わってくる。つまりは歴史のなかの点と点がきちんとつながる構成なのだ。

 アクティビズムのアートとアートのアクティビズムを弁別した書名にも注目したい。アーティストによる社会運動参加と、非アーティストの活動家によるアート領域への接近は、そもそもの出発点、時には目的も異なる。とくに前者については、アーティストが自身の活動を正当化するために社会運動参加を利用しているという批判も起こりうるだろう。

 著者が主張するように、アートの実践とアクティビスト自体の実践のあいだの境界が曖昧になってきているのが現在の傾向なのだとしたら、その曖昧さを契機に両者の問題点と可能性を検討してみてもよいかもしれない。はたして芸術と生活の融合は手放しに評価できるものなのか。変革を成しえなかった運動をどのように評価すべきか。アートの実践でなければならない必然性はあるのか。本書から様々な議論が展開しうる。

 社会においてアートが果たす役割を再考するために、またアートの外でアートを実践するためにも読んでおきたい好著だ。

『美術手帖』2026年1月号、「BOOK」より)