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書評:苛烈に突き進んだ「協働」の17年。卯城竜太『活動芸術論』

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本から注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2023年1月号では、卯城竜太『活動芸術論』を取り上げる。Chim↑Pom from Smappa! Groupの「コレクティブ」としての活動を振り返りながら、国内外の前衛芸術運動を紹介し、ローカルとグローバルを行き来する卯城の視点を網羅した本書。美術批評家・中島水緒が書評する。

評=中島水緒(美術批評)

卯城竜太『活動芸術論』

苛烈に突き進んだ「協働」の17年

 最初に確認しておきたいのは、Chim↑Pom from Smappa! Group(以下、Chim↑Pom)の 元リーダーにして本書の著者である卯城竜太が「集団(グループ )」ではなく、「協働」を意味する「コレクティブ」という言葉に強いこだわりを持っていることだ。何かと炎上案件を発生させては「お騒がせ集団」の悪名を世間に流布しているChim↑Pomだが、6人のメンバーがバラバラな思想と激しいキャラを持ちながらともに活動する在り方は、確かに集団よりもコレクティブの呼び名こそがふさわしい。そして、570ページ以上ものボリュームで初期から現在までの活動を振り返る本書は、馴れ合いからは決して生まれない、ラディカルな彼らの「協働」の姿を克明に記すものである。鮮烈なデビュー作にしてその後のアティテュードを決定づけた《スーパーラット》(2006-)、メディアに取り沙汰され物議を醸した《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009)、歌舞伎町を舞台とする狂乱の「にんげんレストラン」(2018)、会員制というチャレンジングな運営形態による「WHITEHOUSE」。いずれも強いインパクトを残したプロジェクトばかりだが、本書は自己解説に終始するだけのたんなるアーティストブックではない。卯城は本書において、Chim↑Pomの活動から「『個』を突き詰めると『公』の概念と同等になる」というテーゼを抽出し、「個」と「公」という概念から自分たちの活動を理論的に位置付け直しているのだ。「個」のアクションの連鎖が「協働」の輪郭を次々と拡張していく様子は、Chim↑Pomのメンバーが法規制への抵触や他者との折衝も恐れず「個」と「公」のラインを揺るがしていくエピソードの数々からもよく伝わってくる。

 加えて、本書は国内外の前衛芸術運動のすぐれた紹介書の役割も担う。古くは大正期新興美術運動に始まり、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズをはじめとする戦後日本の前衛芸術運動、シチュアシオニスト・インターナショナル、現在活躍する世界各国のアクティヴィストたちまで──Chim↑Pomの同胞とも言うべきアーティストや前衛運動の文脈が教科書的に整理されているのである。ローカルとグローバルを行き来する卯城の視点がなければ、参照する文脈の振幅がこれほど大きくなることはなかっただろう。

 Chim↑Pomを色眼鏡で見ている読者にも、まずはメンバー間の奇妙な共生の姿に注目してもらいたい。結成17年の歴史が何よりも彼らの定義する「コレクティブ」の姿を提示しているからだ。

『美術手帖』2023年1月号、「BOOK」より)

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