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「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」(世田谷文学館)開幕レポート。生涯を通じて貫いた「人を喜ばせる」という哲学【3/3ページ】

第5章「アンパンマンの誕生」

 第5章「アンパンマンの誕生」は、やなせの代名詞である「アンパンマン」の軌跡をたどる。学芸員の宮崎は、前章までで触れた多様な創作のなかに、アンパンマンというヒーローが生まれたヒントが隠されていると説明する。戦争を経験し「正義は状況によって逆転する」と知ったやなせが行き着いた、決して「逆転しない正義」――それが、飢えた人に食べ物を分け与えることだった。自分を犠牲にしてでも困った人を助けるという、やなせの理想のヒーロー像を具現化した存在こそが、アンパンマンである。

第5章「アンパンマンの誕生」の展示風景 ©やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵
やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム開館にあわせて描かれた30〜50号の大型キャンバス作品群 ©やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 会場には、96年の香美市やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム開館にあわせて描かれた30〜50号の大型キャンバス作品をはじめ、キャラクターの誕生背景を示す資料が並ぶ。73年発表の最初の絵本『あんぱんまん』(フレーベル館)から、その後のシリーズ展開への歩みがわかる構成だ。

 また、88年のアニメ化の際にやなせが作詞した主題歌「アンパンマンのマーチ」の直筆原稿も展示されている。東日本大震災の際にも多くの人々を勇気づけたこの曲の歌詞は、大人にこそ深く響く。それは、やなせが生涯を通じて目指したヒーロー像の表れでもある。

エピローグ「人生はよろこばせごっこ」

 エピローグ「人生はよろこばせごっこ」は、やなせの晩年の活動を紹介する内容となっている。つねに「人を喜ばせること」を原点としたやなせは、晩年に歌手デビューを果たし、自らを「オイドル(老いどる)」と称してステージに立った。会場には、やなせが実際に着用した華やかな衣装やパーティーの映像が紹介され、一貫してエンターテイナーであり続けた人柄を感じることができる。

エピローグ「人生はよろこばせごっこ」の展示風景 ©やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 「アンパンマンの生みの親」という枠に収まらない、やなせたかしの多面的な創作活動を網羅した本展。その背景には、やなせの人生経験から導き出された確固たる哲学と信条がある。自身の人生に真っ直ぐ向き合い、何より「人を喜ばせること」を大切にした創作者の生き様を体感できる機会となっている。

編集部